よくある質問4:精神科医はカウンセリングを行わないのか?

精神科医も一定のカウンセリングを行います。しかし、その内容は主に疾患の説明、投薬についての指導、および病状のフォローアップ(と一部の科学的根拠が明白な認知行動療法の導入)に集中します。これは、精神科医のカウンセリングが保険診療の枠組みで提供されるため、具体的かつ明確な医学的根拠がある対応を求められているからです。

一方で、心理士のカウンセリングでは、患者さんの感情、思考パターン、行動、人間関係など、多くの要因を考慮して患者さんの個別のニーズや心理的な背景に深く寄り添い、個別化された心理的サポートを提供します。これらのアプローチは、個々の患者さんに合わせてカスタマイズされるため、標準化が困難であり、その結果、多くが自費診療の枠組みで提供されます。

例えば、情緒が安定しない彼氏と付き合って、気持ちがひどく落ち込み仕事が手に付かない患者さんの場合には、その仕事が手に付かない辛い精神状態が、神経細胞の機能障害を伴っているのかどうかを判定し、神経細胞が傷ついているときは投薬による治療を先行します。神経細胞の機能障害が疑われない時や神経細胞の機能障害がある程度回復した後は、症状をより安定させたり、再発を予防したりするために情緒が安定しない彼氏との向き合い方という思考パターンの改善を図っていく必要があると考えられます。しかし医師は、精神的に安定するという観点では、情緒が安定した人と一緒にいる方が一般的には精神的に安定しますというお話はできますが、患者さんの価値観に即した解決というのは、個々人で望ましいプロセスや結果が異なるので心理士の専門的なスキルが必要で精神科医は手出しできません。そしてこういった個別のアプローチが必要なものは、疾患ごとに標準化された手法ではないため保険診療の枠組みで行うことではありません。

ストレスコーピングの方法も同様です。科学的根拠の高い一般的なストレスコーピングの方法は診察中にご案内できますが、それはすでに行ってうまくいかなかったのだという場合には、患者さんの過去を遡ったり、現在の価値観や取り巻く環境など複数の要素を考慮して、時間をかけて1個1個の方法を試していくという個別のアプローチが必要になるので診察ではなくカウンセラーのカウンセリングで探してもらうことになります。

しかし電車の中で頻回にパニック発作を起こし、症状に対する不安から仕事に影響が出ているパニック障害の患者さんの診察では、投薬と病状フォローだけでなく、パニック障害という疾患に関するカウンセリングである心理教育と段階的暴露療法という認知行動療法の一部も、精神科医の診察中に行っていきます。これはパニック障害に関する疾患についての心理教育と段階的暴露療法に明白な科学的根拠があり標準化されているからです(重症度が高く個別のアプローチが必要な場合はカウンセラーによる認知行動療法を行います)。

このように診察中に、精神科医が思考パターンの改善に対する治療であるカウンセリングを行うこともありますが、あくまで疾患ごとに標準化された手法があり、個別のアプローチが不要な場合に限定されます。個別性が高くなると保険の枠組みで行うのは難しく、個人の価値観や個別性を重んじた解決を図るための専門的なスキルを持つカウンセラーが自費診療の枠組みで行うことになります。

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