ドクターショッピングと転移:なぜ医療機関を転々としてしまうのか—誹謗中傷にも同様のメカニズムが
【はじめに】
精神科や心療内科の受診先を短期間で変えてしまう「ドクターショッピング」。この背景には、患者さん自身が気づかない無意識の感情や過去の対人関係のパターン(転移)が影響するケースがあります。
また、ネット上の誹謗中傷などでも、転移による無意識の怒りや不満が、攻撃的な言動となって表れる可能性があります。
本コラムでは、ドクターショッピングと転移の関係を中心に、誹謗中傷との共通点や安定した治療のためのヒントを心療内科の視点から解説します。
目次
- 1. ドクターショッピングとは?
- 2. 転移とは? 過去の感情が医師や他者に向かうメカニズム
- 3. 誹謗中傷にも同様のメカニズムが作用する場合がある
- 4. ドクターショッピングと転移の関係
- 5. 安定した治療を続けるためのポイント
- 6. 専門家や周囲を活用し、無理なく続けよう
- 7. まとめ:転移を理解し、より良い人間関係・治療を
1. ドクターショッピングとは?
「ドクターショッピング」とは、短い期間で複数の医療機関を次々と受診し、担当医を頻繁に変える行動を指します。
特に精神科や心療内科では、
- 医師との相性やコミュニケーションが合わない
- 処方された薬が期待どおりに効かない、または副作用がつらい
- 「根本的な不安」や「裏切られるかもしれない」という恐怖から医師を信用できない
などの背景で、複数の病院を転々とするケースがあります。
2. 転移とは? 過去の感情が医師や他者に向かうメカニズム
心理学・精神分析でいう「転移」は、過去の対人関係(親、兄弟、過去のパートナーなど)で形成された感情や思い込みを、現在の相手に無意識に投影してしまう現象です。
例えば、
- 昔の厳しい親を医師に重ね、理由なく反発する
- 「また自分を見捨てるのでは?」と極度に不安になり、過剰に依存または拒絶する
このように、無意識の感情や防衛機制が、医師とのやりとりを過剰にこじれさせることがあります。
3. 誹謗中傷にも同様のメカニズムが作用する場合がある
転移の影響は、医師との関係だけでなく、ネット上の誹謗中傷などにも表れます。
例えば、
- 過去に批判的な親やいじめ体験があり、他者を攻撃することで心を守ろうとしている
- 自分の未解決の怒りや不安を、匿名の相手にぶつけて発散する
- 過去の強い嫌悪感を似た属性を持つ人に向け、過剰反応してしまう
こうした心理的メカニズムを理解することで、誹謗中傷を受けた側も「相手の内面にはこういう問題があるかもしれない」と捉え、冷静に対応する助けになることがあります。
4. ドクターショッピングと転移の関係
ドクターショッピングと転移には密接な関連があります。主な例として、
- 理想化と失望: 「完璧な医師」を求め、少しでも合わない部分を見つけると「この人もダメ」と失望して別の病院へ
- 過去のトラウマの投影: 昔の傷つきを無意識に医師に投影し、「裏切られるに違いない」「信用できない」と病院を転々とする
- 医師に対して依存的になりすぎたり、逆に反発的になりすぎたり、極端な対応を取ってしまう
このような心理的背景を認識できると、「自分が医師をどう捉えているか」「なぜこんなに不安や拒否感が強いのか」を客観的に見つめ直すことが可能になります。
5. 安定した治療を続けるためのポイント
ドクターショッピングを防ぎ、安定した治療を継続するためには、次のような点が有効です。
- ①感情を整理し、医師に伝える
「なぜここが嫌なのか」「どこに不安を感じるのか」を自分なりに言語化し、医師に率直に説明。 - ②転移を意識する
「過去の誰か」との体験を思い起こしているのでは? とチェック。
無理に否定せず、「そうかもしれない」と気づくだけでも感情が和らぐ。 - ③カウンセリングを受ける
心療内科や心理士によるカウンセリングで、自分の思考や感情パターンを深く理解。 - ④治療方針を医師と確認する
「薬の目的」「治療目標」「予想される副作用」など、不透明感を減らすことで不安が軽減し、長く治療を続けやすい。
6. 専門家や家族のサポートを活用し、無理なく続けよう
ドクターショッピングや誹謗中傷など、対人関係上の問題や医療への不信が深刻化しているなら、専門家や家族のサポートを活用することも大切。
- 医療相談: 治療方針や主治医の交代などをメディカルソーシャルワーカーに相談
- 家族や友人: 第三者の視点を取り入れることで、転移を認識しやすくなる
- 専門カウンセリング: 力動的精神療法や認知行動療法などを受け、根本的な不安や過去のトラウマに向き合う
7. まとめ:転移を理解し、より良い人間関係・治療を
ドクターショッピングと転移、そして誹謗中傷との関連を知ると、なぜ同じようなパターンが繰り返されるのかという疑問に対して、新たな視点が得られます。
つまり、
- 過去の体験や感情が投影され、現在の医師や相手に不信や怒りを抱く
- 逆に相手も転移を起こし、コミュニケーションがこじれる
こうした「無意識の感情」に気づくことで、ドクターショッピングを含む対人関係のストレスを軽減し、安定した治療や穏やかなコミュニケーションを目指しやすくなります。
当院では、力動的アプローチを含め、認知行動療法や薬物療法などを組み合わせて患者さんの状況に応じたサポートを行っております。
「医療機関を転々とする」「相手に対しての不信や攻撃感情が抑えられない」など、お悩みがある方は、早めに専門家へ相談し、根本的な心の動きを理解する一歩を踏み出してみてください。