【患者さんの家族向けコラム】患者さんの話をじっくり聞くために:家族が身につけたい「聞く技術」—問題解決よりも寄り添うことを大切に

患者さんの話をじっくり聞くために:家族が身につけたい「聞く技術」—問題解決よりも寄り添うことを大切に

【はじめに】
精神疾患を持つ患者さんは、日々の不安や苦しみを抱えながら生活しています。家族が「話をじっくり聞く」という安心感を提供するだけでも、心の負担を大きく軽減できます。
しかし、多くのご家族は「どう対応すればいいのか分からない」「ついアドバイスしたくなる」と戸惑いがち。

本コラムでは、医療機関としての視点から、患者さんの話を受け止めるための「聞く技術」を具体的に紹介します。特に「問題解決を最初の目標にしない」という姿勢が、患者さんへの寄り添いを促す鍵となる点に注目していきます。

目次

  1. 1. なぜ「じっくり聞く」ことが大切なのか
  2. 2. 問題解決を目指さない大切さ:共感と安心感が優先
  3. 3. 患者さんの話を聞くうえでの基本原則
  4. 4. 家族が実践できる「聞く技術」
  5. 5. 聞くための環境づくり
  6. 6. 困難を感じたら専門家へ相談を
  7. 7. まとめ:寄り添いが回復への助けとなる

1. なぜ「じっくり聞く」ことが大切なのか

精神疾患を抱える患者さんにとって、「話を聞いてもらえる」というのは自分の存在や感情を認めてもらえるという意味でもあります。
まずは家族が話を受け止めることで、

  • 安心感が生まれ、孤独や不安を緩和しやすくなる
  • 患者さん自身の感情の整理を助け、ストレスを軽減する
  • 家族が患者さんの本当の悩み症状の変化を早めに把握でき、適切な支援を検討しやすい

聞くこと」は、一見地味な行為ですが、患者さんとの信頼関係を築くうえでとても大きな効果を持っています。

2. 問題解決を目指さない大切さ:共感と安心感が優先

家族としては「早く解決策を提案してあげたい」「何とか病気を治してあげたい」と思うのは自然です。しかし、患者さんが「今すぐ解決策が欲しい」わけではない場合も少なくありません。

問題解決を最初の目標にしてしまうと、下記のような副作用が生じる可能性があります:

  • 患者さんが「分かってもらえていない」と感じる:感情を吐き出す前にアドバイスや指示が与えられると、気持ちを否定されたと受け止めることがある
  • 家族も疲弊しやすい:解決策を提案しても、思うように動いてくれないと、苛立ち焦りが募る
  • 本質的な悩みや感情にたどり着けない:表面的な方法論より、まずは「どんな思いがあって苦しいのか」を共有することが重要

そのため、最初は問題解決よりも共感と安心感を優先し、患者さんの感情言葉を受け止める姿勢を持つことが重要です。

3. 患者さんの話を聞くうえでの基本原則

話を聞く際の基本原則としては、以下を意識すると良いでしょう:

  • ①批判や否定をしない: 「そんなのダメ」「気にしすぎ」など相手の感情を否定しない
  • ②感情を理解しようとする: 「辛かったんだね」「不安なんだね」など、相手の感情を言葉で示す
  • ③黙って聴き、必要に応じて言葉を返す: 相づちや要約を使い「私は聞いている」という安心感を与える
  • ④解決策は焦らない: すぐにアドバイスせず、本人が話し終えるまでゆっくり待つ

4. 家族が実践できる「聞く技術」

ここでは、「聞き方」のテクニックをもう少し具体的に紹介します。
自分の中に「問題解決を優先しない」「共感が大事」という軸を持ちながら取り組むことがポイントです。

  1. ①相槌と簡単な要約(パラフレーズ)
    患者さんが話す内容を「へえ、そうだったんだ」「それは大変だね」と短く受け止め、「つまりこういうことかな?」と要約する。
    相手の感情や状況を再確認して、理解されている実感を持ってもらう。
  2. ②アイメッセージで共感
    私は」を主語にして、相手の話にどう思ったかどう感じたかを伝える。
    例:「私は、それを聞いてあなたが辛そうだと思ったよ」。
    批判や指示ではなく感想を述べるだけ。
  3. ③黙って待つ、沈黙を怖がらない
    相手が言葉を探しているとき、安易に口を挟まず待つ。
    沈黙は考える時間でもあり、相手が感情を整理するチャンス。
  4. ④繰り返し感じた気持ちをフィードバック
    さっきから何度も“嫌だ”って言ってるよね。それくらい強い苦痛を感じてるんだね」と、相手の言葉を拾って気持ちをまとめる。
  5. ⑤解決策を提案したくなったら一旦こらえる
    こんな方法は?」「こうするべき」と思っても、まずは相手が十分に話し終えてから考える。
    本人が「聞いてほしいだけ」ということも多い。

5. 聞くための環境づくり

「どう聞くか」だけでなく、物理的な環境時間の取り方にも工夫があると安心感が高まります。

  • スマホやテレビをオフ: できるだけ余計な雑音や誘惑を減らし、相手に意識を向ける
  • 落ち着ける場所で話す: 静かでソファに座れるなど、リラックスできる場所が望ましい
  • 家族間で「話す時間」を共有する: いつ話したいかを事前に伝えておき、お互い準備ができた状態で会話を始める
  • 短くても定期的に: 毎日5分~10分など少しの時間でいいので、“話す枠”を設けると継続しやすい

6. 困難を感じたら専門家へ相談を

家族がどんなに頑張って話を聞いても、症状が重い場合や危機的な状況がある場合は、家族だけの力で支えきれないこともあります。

  • 医師・カウンセラー: 本人の症状困りごとを専門的視点から見直し、適切な治療を提案
  • 家族相談や家族教室: 家族自身も心理的負担が大きいときにサポートを受けられる
  • デイケア・グループセッション: 本人が安心してコミュニケーションの練習ストレス発散を行う場所

7. まとめ:寄り添いが回復への助けとなる

精神疾患を抱える患者さんの話を、家族が「じっくり聞く」ことは、治療や回復を進めるうえで大きな助けになります。
重要なのは、問題解決を最優先にしないこと。共感と安心感を与える姿勢がまず必要であり、「聞く技術」を意識的に使うと、よりスムーズに気持ちを受け止められます。

ただし、家族も無理しすぎないことが大切。専門家医師カウンセラーなど)と連携しながら、適切なサポートを受けて「聞く体制」を続けることが理想的です。
あなたの「聞く力」が、患者さんの心に安心感をもたらし、回復への大きな一歩となるはずです。

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