続・感情の種類について

一次感情と二次感情 ~より正確に理解するために~

感情には「一次感情」と「二次感情」があることをご存知でしょうか。一次感情は生得的・普遍的な基礎感情であり、二次感情は複数の一次感情や社会的・文化的要因が絡み合って生じる、より複雑な感情です。
本記事では、一次感情と二次感情の代表例や背景理論を、専門的な文献をもとにわかりやすく解説します。また、二次感情の具体例をできるだけ多く挙げ、日常生活で感じやすい感情を整理するヒントを提供します。


一次感情(Primary Emotions)とは

一次感情は「生まれつき備わっている普遍的な感情」として捉えられます。心理学者ポール・エクマン(Paul Ekman)は、世界中の人々が共通して示す表情や生理反応に注目し、以下の6~7種類(必要に応じて軽蔑を加えて7種類)を「基本感情」としました。

  • 喜び(Joy / Happiness)
  • 悲しみ(Sadness)
  • 怒り(Anger)
  • 恐怖(Fear)
  • 嫌悪(Disgust)
  • 驚き(Surprise)
  • 軽蔑(Contempt)(追加されることもある)

一方、ロバート・プルチック(Robert Plutchik)は「感情の輪(wheel of emotions)」というモデルを提唱し、以下の8つを基本感情と定義しています。

  • 喜び(Joy)
  • 信頼(Trust)
  • 恐怖(Fear)
  • 驚き(Surprise)
  • 悲しみ(Sadness)
  • 嫌悪(Disgust)
  • 怒り(Anger)
  • 期待(Anticipation)

これらは理論によって若干異なる点があるものの、「普遍的・生得的な感情」として広く受け入れられています。


二次感情(Secondary Emotions)とは

二次感情とは、複数の一次感情や社会的・文化的要因が組み合わさって生じる、より複雑な感情です。社会的評価や自己評価、学習された価値観などが影響し、単なる生得的反応の枠を超えて形成されます。
例えば、他者との比較や道徳観の内面化、周囲からの視線など、さまざまな認知的・社会的要素が加わり、一次感情だけでは説明できないほど奥深い感情に発展します。

代表的な二次感情の例(できるだけ多く挙げています)

  • 嫉妬・羨望(Envy / Jealousy)
    他者と自分を比較し、「自分が持っていない」「奪われたくない」と感じることで、怒り・悲しみ・悔しさなどが複合。
  • 罪悪感(Guilt)
    自分の行動が道徳や良心、社会的規範に反していると感じるときに生じる後悔や自責の念。
  • 羞恥心(Shame / Embarrassment)
    他者からどう見られているか、自分は恥ずかしい存在だと感じることで起こる感情。一次感情の恐怖や悲しみ、自己評価の低さが絡み合う。
  • 失望(Disappointment)
    期待していた結果にならなかったときに感じる落胆や悲しみ、苛立ちなどが複合する感情。
  • 焦燥感(Impatience / Anxiety)
    物事が思うように進まなかったり、先が見えなかったりすることで生じる不安や苛立ちが混ざった感情。
  • 後悔(Regret)
    過去の選択や行動が誤っていた、あるいはもっと良い選択があったと感じるときに生じる感情。罪悪感や悲しみを伴うことも多い。
  • 憤慨・憎悪(Resentment / Hatred)
    他者から不当な扱いを受けたり、何らかの被害を被ったときの強い怒りや嫌悪。恨みや怒りが長期化すると憎悪に発展することも。
  • 不信感・疑念(Distrust / Suspicion)
    他者を信用できない、疑わしいと感じることで生じる感情。恐怖や怒り、警戒心が複合している。
  • 緊張感(Tension / Nervousness)
    プレッシャーのある状況や、未知の事態を前にして高まる身体的・精神的な張り。一次感情の恐怖や不安が背景にある。
  • 心配・懸念(Worry / Concern)
    将来や出来事に対して不安や恐れがあり、そのことに意識が捕らわれている状態。恐怖や悲しみが複合している場合も。
  • 孤独感(Loneliness)
    他者とのつながりが薄い、理解されていないと感じることで生じる感情。悲しみや不安、自己否定などが複雑に絡む場合がある。
  • 憧れ・切望(Longing / Yearning)
    手に入れたいものや会いたい人がいるのに、現実には得られない状態で感じる感情。喜びの要素と悲しみの要素が混在。
  • 誇り(Pride)
    自分自身や所属集団の成果・価値を高く評価するときに生じる肯定的感情だが、自己評価や他者評価が絡むため複雑。
  • 後ろめたさ(Remorse)
    罪悪感や後悔のうち、特に強い自己批判や強烈な悲しみを伴う状態。結果として自己否定につながることがある。
  • 自尊心の傷つき(Hurt Pride / Offense)
    他者からの批判や侮辱、無視などによって自尊感情が損なわれたときに生じる怒りや悲しみの混在した感情。
  • 苛立ち(Frustration / Irritation)
    思い通りにいかない状況が続き、ストレスを強く感じる状態。怒り、不安、焦りなど複合的な感情が含まれる。
  • 自嘲・自己嫌悪(Self-Loathing / Self-Deprecation)
    自分自身に対して嫌悪や軽蔑、情けなさを覚える感情。悲しみや怒りが自己に向かった形ともいえる。
  • 羨望混じりの尊敬(Admiration tinged with Envy)
    相手を敬う気持ちと、自分にはないものを持っている相手を羨ましく思う気持ちが同時に存在する複雑な感情。

一次感情と二次感情をラベリングする方法

自分の心に起こっている感情を「これは一次感情か、二次感情か」と整理する作業を「ラベリング」といいます。次のSTEPを参考に、まずは自分自身の状態を客観的に観察してみましょう。

STEP 1:今の感情に気づく

まずは、自分がどんな感情を抱いているのかを言語化してみましょう。
「腹が立っている」「悲しい気分」「少しイライラする」など、ざっくりとした表現でも構いません。言葉にするだけでも、無意識だった感情を意識に上げる効果があります。

STEP 2:一次感情か二次感情かを見極める

言語化した感情が、喜び・悲しみ・怒り・恐怖・嫌悪・驚きなどの「生得的で普遍的」なものなら一次感情の可能性が高いです。
一方、「嫉妬」「罪悪感」「羞恥心」「焦燥感」「失望」など、複数の要素や社会的評価が入り混じるものは二次感情にあたります。
感情の背後にある要素(例:他者比較、自分の価値観や恥の意識など)を考えると、一次感情だけでは説明できない面が見えてくるはずです。

STEP 3:原因や思考パターンを整理する

感情を一次・二次で分類したら、さらに「なぜその感情を抱いているのか」「どんな場面や思考パターンが影響しているのか」を振り返ってみましょう。
二次感情の場合は、「どんな一次感情の組み合わせか」「社会的・文化的要因や自分自身の思考のクセ」を見つめると、より深い理解につながります。
これにより、自分の感情を客観視しやすくなり、コントロールやケアの方法を見出しやすくなるでしょう。


まとめ

一次感情とは、主に生得的かつ普遍的に観察される基礎的な感情を指し、二次感情はそうした一次感情が複合したり、社会的・文化的な要因が加わったりして形成されます。どの感情が一次に分類されるか、二次に分類されるかは理論や研究者によって若干異なる部分はありますが、おおむね下記の点で共通認識を持つことができます。

  1. 一次感情は、喜び・怒り・恐怖・嫌悪・驚き・悲しみなど少数の基礎的反応
  2. 二次感情は、一次感情に社会的・認知的要因が加わって複雑化したもの

感情をセルフモニタリングする際には、「いま自分が抱いているのはどの一次感情か」「そこにどのような社会的・文化的要素や思考が加わっているのか」をステップごとにラベリングしてみてください。こうした手順を踏むことで、感情をより深く理解し、適切な対処やケアを行いやすくなるでしょう。


参考文献・資料

  • Ekman, P. (1992). An argument for basic emotions. Cognition & Emotion, 6(3/4), 169–200.
  • Plutchik, R. (1980). A general psychoevolutionary theory of emotion. In R. Plutchik & H. Kellerman (Eds.), Emotion: Theory, research, and experience (Vol. 1, pp. 3–33). Academic Press.
  • Izard, C. E. (1977). Human Emotions. Springer.
  • Lazarus, R. S. (1991). Emotion and Adaptation. Oxford University Press.

※本記事の内容は、一般的な学術知見をもとに要約したものであり、すべての説を網羅するものではありません。研究者による見解や学説の違い、文化的要素などを踏まえてさらに深めたい方は、上記の文献を参照してみてください。

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