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躁うつ病(双極性障害)

躁うつ病(双極性障害)とは

躁うつ病(双極性障害)は、気分が高まる「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」が交互にあらわれる精神疾患です。躁状態では、興奮や多弁、過剰な自信、睡眠時間の低下(寝ないでも元気)などが見られ、うつ状態では、気分の低下や意欲の減退、自己肯定感、食欲不振、自殺念慮などが見られます。
この障害は主に「双極Ⅰ型」と「双極Ⅱ型」の2つに分類されます。双極Ⅰ型は典型的な躁状態と重度のうつ状態を伴い、社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。双極Ⅱ型は軽躁状態と重度のうつ状態を繰り返し、入院が必要になることは少ないですが、日常生活には支障をきたすことがあります。
原因には遺伝的要因やストレス、脳内物質の不均衡が考えられています。発症は通常20代から30代に多く見られますが、中学生から高齢者まで幅広い年齢層で発症する可能性があります。治療には薬物療法や心理療法が用いられ、早期の診断と適切な治療が重要です。

「双極Ⅰ型障害」と「双極Ⅱ型障害」とは

双極性感情障害は、気分の変動の程度によって2つのタイプに分けられます。
第一のタイプでは、極端に高揚した気分が特徴的で、睡眠欲求が著しく減少し、日常生活に重大な支障をきたすほどの状態に陥ります。この状態は「躁状態」と呼ばれ、時には入院治療が必要になることもあります。
これに対し、もう一つのタイプでは、気分の高揚は認められるものの、その程度は比較的穏やかです。この「軽躁状態」では、周囲との軋轢を生じることはあっても、通常は入院を要するほどの深刻さには至りません。
これらの状態の現れ方によって、双極性障害は「I型」と「II型」に分類されます。I型は躁状態とうつ状態が交互に現れ、II型は軽躁状態とうつ状態が繰り返されるのが特徴です。


躁うつ病(双極性障害)の原因

躁うつ病(双極性障害)の原因は、複数の要因が絡み合っていると考えられています。

遺伝的要因

遺伝は発症に大きな影響を与えるとされており、一卵性双生児では約80%の確率で片方が発症すると言われています。また、家族内での発症率も高く、親や兄弟に同様の障害を持つ人が多いことが観察されています。

神経伝達物質の異常

脳内の神経伝達物質(ノルアドレナリンやセロトニンなど)の機能に異常が生じることによって引き起こされると考えられています。感情や気分を調整する役割を持ち、そのバランスが崩れることで躁状態や抑うつ状態があらわれるとされています。

環境的要因

ストレスフルな出来事や生活環境も、発症や再発に影響する可能性があります。特に経済的な危機や重大なライフイベントは、発症の引き金となることがあります。ストレスが蓄積されることで、脳内で「キンドリング現象」が起こり、小さなストレスでも再発するリスクが高まるとされています。

キンドリング現象

キンドリング現象は、脳の特定部位に対して弱い電気刺激を繰り返すことで、最初は局所的な発作波しか引き起こさないが、徐々にその発作が広がり、行動上のてんかん様反応が強化され、最終的には全身けいれんを引き起こす現象です。特に大脳辺縁系や扁桃核が関与しています。キンドリングが形成されると、刺激を与えなくても自発的にてんかん様発作が生じるようになり、その持続性が特徴です。神経伝達物質の変化も関与しており、特にドーパミンやGABAの役割が研究されています。

性格的要因

特定の性格特性も関連すると考えられています。社交的で活動的な「循環気質」や、几帳面で完璧主義的な「メランコリー親和性性格」が、この障害を持つ人々に多く見られます。

循環気質

循環気質は、躁うつ気質とも呼ばれ、社交的で明るい性格を持ちながらも、気分の波があることが特徴です。基本的には快活で人懐っこいですが、時には感情の起伏が激しくなりやすいです。他者からの評価を重視し、それによって自己評価が影響されるため、ストレスに敏感です。社会的には高く評価されることが多いですが、自信のなさから不安定な面も持っています。

メランコリー親和性格

メランコリー親和性格は、生真面目で責任感が強い性格傾向を指します。他者に対して誠実でありながら、自分の意見を押し通すことが難しく、周囲との調和を重んじます。ストレスに敏感であり、環境の変化に対して強い不安を感じることがあります。社会的には評価されやすいですが、自身の感情を抑え込みやすく、結果としてうつ状態に陥るリスクがあります。

その他の要因

甲状腺機能亢進症などの身体的疾患や、一部の薬物(コカインやアンフェタミン)の影響も躁状態を引き起こすことがあります。


躁うつ病(双極性障害)になる頻度(何人に1人)?

日本では、躁うつ病(双極性障害)の患者さんが継承~重症まですべて合わせて約0.4%~0.7とされています。つまり、1,000人に4~7人とされ、100人に10人程度とされるうつ病と比較するととても少ない発症率です。


躁うつ病(双極性障害)の
セルフチェック(初期症状)

躁うつ病(双極性障害)の症状は、躁状態とうつ状態の2つの極端な気分の変動が特徴です。

躁状態の主な症状

  • 自分が何でもできると感じる
  • おしゃべりになり、話が止まらない
  • 活動的になり、エネルギーが溢れる
  • 考えが次々に浮かび、集中できない
  • ほとんど眠らなくても平気になる(寝なくても元気)
  • 高価な物を衝動的に購入するようになった
  • 無謀な行動を取ることがある
  • 自分が特別であると考えることがある

混合状態の主な症状

躁状態と同時にうつ状態の症状もあらわれることがあり、例えば興奮しながらも強い不安感や涙を流すことがあります。

気分のセルフモニタリングの重要性

セルフモニタリングとは

気分のセルフモニタリングは、自分自身の気分や行動パターンを日々記録し、変化を把握する方法です。これにより、再発の兆候を早期に察知し、適切な対処が可能となります。

セルフモニタリングの方法

気分日記の作成:毎日の気分、睡眠時間、活動内容、ストレス要因などを記録します。

  • 専用アプリの活用:スマートフォンのアプリを使って手軽に記録・分析ができます。
  • 定期的な自己評価:週や月単位で振り返り、パターンや傾向を確認します。

気分日記

セルフモニタリングのメリット

  • 再発の早期発見:気分や行動の変化を自覚しやすくなります。
  • 治療効果の向上:医師との情報共有がスムーズになり、治療プランの調整がしやすくなります。
  • 自己管理能力の向上:自身の状態を客観的に理解し、適切な対処が可能になります。

躁うつ病(双極性障害)の
検査・診断

躁うつ病(双極性障害)の診断は、身体的な病気とは異なり、血液検査や画像検査では確定できません。主に、国際的に認知されている診断基準であるICD-10(WHO)やDSM-5(米国精神医学会)を用います。

診断基準

双極性障害は大きく二つに分類されます。

双極Ⅰ型障害

少なくとも1回の躁エピソードがあり、その症状が社会的または職業的機能に著しい影響を与える場合。

双極Ⅱ型障害

躁エピソードが存在せず、軽躁エピソードが1回以上、かつ抑うつエピソードがある場合。

診断の流れ

躁うつ病(双極性障害)の検査・診断は、医師による問診や質問票に回答依頼していただく他、甲状腺機能亢進症などの疾患を除外するために血液検査などを行うことがあります。また、近年では、光トポグラフィー検査による脳の血流を可視化した検査を行うこともあります。光トポグラフィー検査が必要な場合には、連携する医療機関をご紹介させていただきます。
躁うつ病は症状がうつ病に似ているため、誤診されやすい病気です。特に抗うつ薬の処方が不適切な場合、症状が悪化する可能性があります。そのため、正確な診断と適切な治療が重要です。


躁うつ病(双極性障害)の
治療法

躁うつ病(双極性障害)は、主に薬物療法、心理社会的治療、および電気けいれん療法をうまく組み合わせながら治療していきます。

薬物療法

主に以下の2種類の薬を使用します。

気分安定薬

気分安定薬は、躁状態とうつ状態をコントロールし、再発を予防するために用います。

気分安定薬

抗精神病薬

抗精神病薬は、特に躁状態や重度のうつ状態に対して使用します。

抗精神病薬

内服治療の重要性

再発率と内服継続の関係

双極性障害は再発性の高い疾患であり、適切な内服治療を継続することで再発リスクを大幅に低減できます。

  • 治療を継続した場合:再発率は約20〜30%と報告されています。
  • 治療を中断した場合:再発率は70〜90%にまで上昇します。

これらの数字は、2020年に発表された日本精神神経学会のガイドラインに基づいています。

内服中断のリスク

内服治療を自己判断で中止すると、以下のリスクが高まります。

  • 再発の早期化:中止後数週間〜数ヶ月で再発する可能性が高い。
  • 症状の重症化:再発時の症状が以前よりも重くなることがある。
  • 治療抵抗性の増加:再発を繰り返すと、治療への反応が悪くなることがあります。

心理社会的治療

薬物療法と並行して行われる心理社会的治療も重要です。以下のようなアプローチがあります。

心理教育

患者さんがご自身で自分の病気について学び、理解を深めることで病気を受け入れやすくすることを目的としています。

家族療法

家族が患者さんを理解し支えるための方法であり、再発防止にも寄与します。家族とのコミュニケーションを改善し、ストレスを軽減することが目指されます。

認知行動療法

否定的な思考パターンを修正し、ポジティブな考え方を育むことを目的としています。これにより、うつ状態からの回復を助けます。当クリニックでも経験豊富な臨床心理士/公認心理師が行っています。

認知行動療法

電気けいれん療法

重度の方には、電気けいれん療法を検討することがあります。特に重篤なうつ症状や自殺念慮がある場合に効果的と考えられています。必要な場合には、連携する医療機関をご紹介させていただきます。

社会生活リズムを一定にする重要性

社会生活リズムとは

社会生活リズムとは、日常生活における睡眠・食事・運動・仕事・社交活動などの時間やパターンを指します。これを一定に保つことは、双極性障害の再発予防に大きく寄与します。

社会生活リズム療法(Social Rhythm Therapy)

社会生活リズム療法は、生活リズムの安定化を目的とした治療法で、以下の要素が含まれます:

  • 規則正しい睡眠・起床時間の設定:毎日同じ時間に寝起きすることで、体内時計を安定させます。
  • 食事時間の固定:食事も一定の時間に摂取することで、生活リズムを整えます。
  • 定期的な運動:適度な運動は気分の安定とストレスの軽減に効果的です。
  • 社会活動の計画:友人や家族との交流、趣味の時間を計画的に取り入れます。

生活リズムの乱れと再発リスク

生活リズムの乱れは、脳内の神経伝達物質やホルモンバランスに影響を与え、再発リスクを高めます。特に、睡眠不足や過度のストレスは再発の引き金となりやすいため注意が必要です。

実践のためのポイント

日常生活での工夫
  • スケジュール帳やアプリの活用:予定やルーチンを可視化し、遵守しやすくします。
  • 睡眠環境の整備:快適な寝室環境を整え、良質な睡眠を促進します。
  • ストレス管理:リラクゼーション法や趣味の時間を取り入れ、ストレスを軽減します。
家族や周囲の協力
  • 家族との情報共有:セルフモニタリングの結果や気分の変化を家族と共有します。
  • サポート体制の構築:困ったときに相談できる人を明確にしておきます。

最新の研究動向

セルフモニタリングと再発予防

2022年の研究によると、セルフモニタリングを実施した患者様は、再発率が約50%減少したと報告されています(参考:International Journal of Bipolar Disorders)。

社会生活リズム療法の効果

社会生活リズム療法を取り入れた患者様は、再発までの期間が有意に延長し、生活の質も向上したことが示されています。


躁うつ病(双極性障害)の予防法

睡眠リズムの安定:再発リスクを大きく左右する

規則的な睡眠習慣を維持することは、双極症の再発を防ぐ上で極めて重要とされています。

具体的なエビデンスとしては、

  • 一晩の徹夜(睡眠剥奪)を行った双極症患者の約78%(9人中7人)が、直後に躁または軽躁状態に移行したとの報告。
    → つまり徹夜や睡眠不足は気分変調の引き金となりやすい。
  • 慢性的に睡眠不足が続けば、さらに多くの患者が再発を経験する可能性が高くなる。
  • 不眠に対する認知行動療法を取り入れた群では、6か月間の観察で気分エピソード再発率が約14%であり、通常の心理教育のみの群の42%と比べ大幅に低下。
    また、躁・軽躁への再発率も、対照群の31.6%に対しわずか4.6%と有意に低減。

これらのデータから、毎日決まった時間に就寝・起床し、7~8時間程度の睡眠を確保することが、気分の波を安定させ再発リスクを減らすうえで大きな効果を発揮することがわかります。
「睡眠リズムを崩さない」「夜更かしや徹夜を避ける」といった小さな心がけが、エピソードの再発を防ぐ鍵です。

規則的な生活リズム:ソーシャルリズムが再発を左右

食事や活動、休息など生活上のリズムを一定に保つことも、双極症の気分変動を抑えるうえで欠かせません。

研究データによると、

  • 生活リズムが乱れる出来事が起こると、その後のエピソード再発リスクが約33%増加。
  • IPSRT(対人関係・社会リズム療法)のように、生活パターンの規則性を高める心理療法が開発されており、薬物療法と併用することで再発予防に有効。

実際、規則正しい生活習慣の指導を受けた患者は気分症状が安定しやすく、機能レベル(社会生活や対人関係)も向上するとの報告もあります。
特に就寝・起床や食事の時間を毎日ほぼ一定にし、夜勤や徹夜を避けることが再発予防に重要です。

運動習慣の導入:うつ症状軽減に顕著な効果

定期的な運動も、抑うつエピソードの軽減に有効とされています。
双極症患者は一般に運動不足が多く、ある報告では40~65%が座りがちな生活を送っているといわれます。

しかし運動不足が続くと、

  • 身体機能が低下し、体力面・メンタル面の両方で悪循環を生みやすい
  • モチベーション低下が進み、抑うつ症状が悪化

逆に、運動習慣を持つ人ほどうつ症状が少なく生活の質が高い傾向が確認されています。

具体的には、

  • 週に3回程度の中強度の運動を継続すると気分安定に寄与。
    ある研究では、双極I型・II型の軽度~中等度うつ状態の患者に12週間の有酸素運動+筋力トレーニング(週3回)を課した結果、82%の患者でうつ症状が半減し、45%は症状がほとんど消失(寛解)。
  • 大規模メタ分析でも、定期的に運動する人はしない人に比べて将来的にうつ病になるリスクがおよそ17%低い。

ただし、あまりに激しい運動は一部で躁状態を誘発する可能性が指摘されているため、無理のない範囲で行うことがポイントです。
有酸素運動やヨガ、散歩など適度な強度の運動を週に数回取り入れると、気分の安定が期待できます。

バランスの良い食事とオメガ3脂肪酸

栄養バランスの取れた食生活は、脳機能と気分を安定させる上で非常に重要です。糖質・脂質過多や加工食品中心の食事は血糖値の乱高下を引き起こし、気分変動を悪化させる要因となることがあります。特に魚やナッツに含まれるオメガ3脂肪酸(EPA/DHA)は、うつ症状の軽減に寄与するエビデンスがあります。

  • 青魚(サバ、サケ、イワシなど)を週2回以上摂取
  • 野菜・果物・たんぱく質をバランス良く
  • 暴飲暴食や過度の甘味摂取を避ける
  • 必要に応じてサプリメント(主治医に相談)

メタ分析でも、オメガ3脂肪酸の摂取と双極性障害のうつ症状改善との関連が示されています。食生活を見直すだけでも、再発予防や日々の気分安定に大きく貢献するでしょう。

薬物療法の遵守と自己モニタリング

双極II型感情障害では、気分安定薬や抗うつ薬などの処方を正しく継続することが大切です。症状が安定していても、自己判断で減量や中断をしてしまうと再発を招きやすくなります。仕事や学業で忙しい方は、服薬アラームやピルケースを活用すると飲み忘れを防ぎやすいでしょう。

  • 処方通りに薬を飲む
  • 自己判断で薬を調整しない
  • 飲み忘れを防ぐための工夫(アラーム、家族の協力など)
  • 定期的に血液検査などを行う(必要に応じて)

さらに、毎日の気分や睡眠、食事、出来事を簡単に記録する習慣も有用です。気分スケールやメモアプリを使って、「今日は10段階でどれくらいの元気度か」などをチェックすると、早めに変化に気づきやすくなります。心理教育プログラムの研究では、自己管理意識の高い患者さんほど再発リスクが低いことが示されています。

ストレス管理と早期対処(再発徴候に気づくスキル)

日常のストレスを上手にコントロールすることも、気分波動の再発を防ぐうえで重要です。
ストレスフルな出来事は双極症の発症トリガーとなりうるため、以下のような工夫が役立ちます。

  • リラクゼーション法(深呼吸やマインドフルネス)を日課に
  • スケジュール管理で過度な負担を回避
  • 気分記録(日記やアプリ)で“兆候”に早めに気づき、迅速に対処

実際に心理教育で、患者自身が再発サインを察知し対処するスキルを身につけると、長期的な再発率が大きく下がるとの報告があります。
ある研究では、グループ心理教育を受けた患者の2年間の再発率が60%で、通常ケア群の92%と比べ有意に低下。また、薬物療法に心理社会的介入を追加すると再発リスクが約40%減少するとのメタ分析も存在します。

まとめ:数字が示す生活習慣と心理教育の有用性

以下に整理すると、双極症の再発予防には

  • 十分な睡眠を確保(睡眠リズムの安定で再発率大幅低減)
  • 規則正しい生活リズムを保ち(再発リスク33%増を回避)
  • 無理のない範囲での運動(うつ症状軽減率82%の例あり)
  • ストレス管理と早期対処(心理教育により再発率約40%低下)

といった具体的な行動が有用であることが、エビデンスから裏付けられています。
どれも日常で取り組みやすい習慣であり、「できることから少しずつ」実践するだけでも効果を期待できます。

睡眠を大切にする習慣、定期的な運動、生活リズムの安定、ストレス管理を積み重ねていくことで、再発への不安を軽減し、気分の安定や社会機能の向上を目指せるでしょう。

当クリニックでのサポート

当クリニックでは、薬物療法に加え、カウンセリングや認知行動療法、心理教育など“心理社会的アプローチ”を組み合わせた治療を行っています。
「双極症で日常が不安定」「再発を防ぐために何をすればいいのか知りたい」という方は、ぜひご相談ください。
生活習慣や心理的ストレスのケアを通じて、長期的な気分の安定をサポートいたします。


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