社交不安障害とは
社交不安障害は、他者からの注目や評価に対して過度の恐怖や不安を感じる精神障害です。主な症状には、人前での発言や行動に強い不安を感じる、否定的な評価を受けることへの恐れ、赤面や発汗などの身体症状が含まれます。日常生活に大きな支障をきたし、社交場面の回避に繋がることがあります。診断は、6か月以上症状が続き、恐怖や不安が現実的な脅威と釣り合わないことなどが基準となります。発症は10代半ばから20代前半に多く、適切な治療を受けずに気質や性格の問題と誤解されることもあります。治療には認知行動療法や薬物療法が効果的とされています。
社交不安障害と「あがり症」の違いは?
社交不安障害とあがり症は、症状が類似しているため混同されることがありますが、厳密には異なります。
社交不安障害は、DSM-5で定義される精神疾患であり、社会的状況に対する強い恐怖や不安が6か月以上続き、日常生活に支障をきたす状態を指します。
一方、あがり症は医学的診断名ではなく、一般的に人前で緊張したり不安を感じたりする状態を指す俗称です。症状の程度や持続期間が社交不安障害ほど深刻ではない場合が多いです。
社交不安障害と「対人恐怖症」の違いは?
社交不安障害は、特定の社会的状況での否定的評価を恐れ、幅広い社交場面で不安を感じます。一方、対人恐怖症は人間全般に対する恐怖や不安が中心で、社交場面に限らず人との接触自体を避ける傾向があります。
社交不安障害は国際的に認められた診断名ですが、対人恐怖症は日本で発展した概念で、文化的影響を強く受けています。
社交不安障害の原因
生物学的要因
脳内の神経伝達物質、特にセロトニンの減少が関与しています。セロトニンは心身をリラックスさせるホルモンで、その減少により過剰な緊張や不安を感じやすくなります。また、扁桃体の過活動状態も症状の発現に関連しています。これらの生物学的要因は、不安を感じやすい体質の形成に影響を与えています。
遺伝的要因
社交不安障害には遺伝的な傾向があることが分かっています。両親が不安症の場合、子どもの発症率は4〜6倍高くなり、遺伝率は30〜40%とされています。第一度親族に社交不安障害がある場合、発症の確率が2〜6倍高くなるという研究結果もあります。
環境的要因
幼少期の養育環境やトラウマ体験が社交不安障害の発症に関与しています。過度に厳しい、または過保護な養育態度や、いじめ、人前での失敗経験などのトラウマが原因となることがあります。また、小児期の虐待や心理社会的困難も発症のリスク要因となります
社交不安障害のセルフチェック
(初期症状)
社交不安障害の主な症状には以下のようなものがあります。
- 人前での発言やスピーチに強い不安を感じる
- 見知らぬ人や顔見知り程度の人との会話に恐怖を感じる
- 権威のある人との面談や会話に不安を感じる
- 人前で文字を書くことに恐怖を感じる
- 人前で食事をすることに不安を感じる
- 会食やパーティーへの参加を恐れる
- 他人の視線を浴びることに強い不安を感じる
- 赤面することを過度に恐れる
- 声や手が震えることを恐れる
- 発汗を過度に気にする
- 動悸や胃腸の不快感を感じる
- 頭が真っ白になり何も答えられなくなる
- めまいや吐き気を感じる
- 口が渇く
- 筋肉のこわばりを感じる
- 1対1の状況に強い緊張を感じる
- 初対面の人との対面に極度の緊張を感じる
- 人前でお腹が鳴ることを過度に心配する
- 公共の場所での排尿に困難を感じる
- 批判や拒絶に対する強い恐怖を感じる
- 社会的状況を回避しようとする
- 予期不安(将来の社会的状況に対する不安)を感じる
など
社交不安障害の検査・診断
社交不安障害の検査・診断は医師による問診のほか、DSM-5-TRやLSAS (Liebowitz Social Anxiety Scale)など質問紙票を使用して行います。
DSM-5-TRに基づく診断
- 社交場面に対する著明かつ持続的な恐怖または不安(6か月以上)
- 否定的評価への恐れ
- 社交場面がほぼ常に恐怖や不安を引き起こす
- 社交場面の意図的な回避
- 恐怖や不安が現実的な脅威と釣り合わない
- 症状が日常生活に支障をきたしている
社交不安障害の治療法
薬物療法
主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を用います。セロトニンを増やす作用があり、不安症に効果を発揮します。効果があらわれるまでに2〜4週間かかりますが、症状を改善させます。βブロッカーも使用され、副作用が少なく安全性が高いです。症状改善後も6か月〜1年以上の服薬継続が重要です。
認知行動療法
社交不安障害に最も効果的な心理療法です。ネガティブな思考や感情の歪みを認識し、柔軟な物の見方に変えていきます。また、不安が生じる状況に少しずつ慣れる訓練を行います。暴露法、モデリング法、呼吸法、バイオフィードックなどの技法を用いて、不安や緊張をコントロールする方法を学びます。当クリニックでも医師の他、経験豊富な臨床心理士/公認心理師が認知行動療法を行っています。
社会技能訓練(SST)
社交不安障害の人は対人スキルや社会スキルが乏しいことが研究で明らかになっています。SSTを用いて、これらのスキルの向上を目指します。ただし、SSTを単独で実施しても効果が限定的なため、他の治療法と組み合わせて行うことが推奨されます。