睡眠薬とは
十分な睡眠は心身の健康を保つために不可欠です。睡眠不足は集中力低下や自律神経の乱れを引き起こす可能性があるため、睡眠の質を改善することが重要です。睡眠の質を改善させるために使用する睡眠薬は、「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」と「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」に大別されます。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、依存性耐性が比較的少ないので、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬から治療を開始することが多いです。また、当クリニックでは、西洋薬に抵抗がある方に対して、漢方薬の処方も行っています。下記、当クリニックで処方する代表的な睡眠薬について説明します。
睡眠導入剤と睡眠薬の違いは?
睡眠導入剤と睡眠薬は、基本的に同じ目的で使用される薬ですが、睡眠薬が不眠症全般に対する治療薬を指す事に対し、睡眠導入剤は睡眠薬の中でも特に入眠を助けることを目的とした薬になります。また作用時間も異なり、睡眠導入剤は主に短時間(2~4時間程度)の作用時間に対し、睡眠薬は短時間~長時間まで幅広い作用時間のものがあります。
睡眠薬以外に不眠に効果のある薬
抗うつ薬
一部の抗うつ薬は、その鎮静効果から不眠症の治療にも用いられます。これらは「鎮静系抗うつ薬」と呼ばれ、特定の脳内受容体に作用して睡眠の質を向上させます。
例えば、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)や四環系、三環系抗うつ薬などは、抗ヒスタミン作用も有しており、睡眠を促進する効果があります。
特筆すべきは、一部の三環系抗うつ薬がREM睡眠を抑制する作用を持つことです。この特性は、悪夢に悩む患者さんの治療に活用されることがあります。
抗精神病薬
抗精神病薬も、その副次的効果として睡眠に影響を与えることがあります。これらの薬剤は主に特定の脳内受容体をブロックすることで鎮静作用をもたらします。
近年開発された非定型抗精神病薬の中には、複数の受容体に作用するものがあり、睡眠の質を改善する可能性があります。
これらの薬剤は、不眠症の直接的な治療薬ではありませんが、特定の症例において睡眠の改善に寄与する可能性があります。ただし、使用にあたっては専門医の慎重な判断が必要です。
睡眠薬の種類
睡眠薬の作用時間
超短時間型
効果のピークが1時間未満で、作用時間は2~4時間となります。
短時間型
効果のピークが1~3時間で、作用時間は6~10時間となります。
中間型
効果のピークが1~3時間で、作用時間は20~24時間となります。
長時間型
効果のピークが3~5時間で、作用時間は24時間以上となります。
非ベンゾジアゼピン系(超短時間型)
代表的な薬剤:マイスリー、アモバン、ルネスタ
ベンゾジアゼピン系
- 超短時間型:ハルシオン
- 短時間型:レンドルミン、エバミール/ロラメット、リスミー、デパス、サイレース
- 中間型:ユーロジン、ベンザリン/ネルボン、ロヒプノール
- 長時間型:ドラール
メラトニン受容体作動薬
例:ロゼレム、メラトベル
オレキシン受容体拮抗薬
例:ベルソムラ、デエビゴ
バルビツール酸系
例:ラボナ、イソミタール
※安全性の問題から現在はほとんど使用されていません
作用メカニズムによる
睡眠薬の分類
睡眠薬は、作用機序により大きく2つに分類できます。
脳機能抑制型睡眠薬
睡眠薬として多く使用されている種類で、大脳辺縁系や脳幹網様体の神経活動を抑制します。ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、バルビツール酸系が主となります。強い催眠作用があることが特徴です。
生理的睡眠促進型睡眠薬
比較的新しいタイプの睡眠薬で体内の睡眠・覚醒リズムに関与する物質の働きを調整します。メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬があり、自然な眠気を強くさせることが特徴です。また、効果に個人差が大きいことも特徴です。
非ベンゾジアゼピン系
(超短時間型)
マイスリー(ゾルピデム酒石酸塩錠)
マイスリーは不眠症や睡眠障害に対して処方する薬です。作用時間が2-4時間程度と短く、朝に残りにくいのが特徴です。寝つきが悪い、熟睡できないなどの不眠症状を改善する薬です。不安や緊張を和らげ、寝つきを良くする働きがあります。主な副作用として、ふらつき・目眩、睡眠中の異常行動、眠気、頭痛・頭重感、倦怠感、残眠感、悪心、不安、悪夢などがあります。用法は、就寝前に口から服用します。
アモバン(ゾピクロン錠)
アモバンは、不眠症や睡眠障害に対して処方する薬です。寝つきが悪い、熟睡できないなどの不眠症状を改善する薬です。不安や緊張を和らげ、寝つきを良くする働きがあります。主な副作用として、味覚異常(苦味)、ふらつき・目眩、睡眠中の異常行動、眠気、頭痛・頭重感、倦怠感、残眠感、悪心、不安、悪夢などがあります。用法は、就寝前に口から服用します。
ルネスタ(エスゾピクロン錠)
ルネスタは不眠症や睡眠障害に対して処方する薬です。アモバンが改良された薬で、アモバンより副作用(苦味、眠気など)が出辛く、作用時間が6-8時間程度と少し長いです。デエビゴ・ベルソムラ同様に依存性が少ない睡眠薬として、初めの睡眠薬として処方しやすい薬です。寝つきが悪い、熟睡できないなどの不眠症状を改善する薬です。不安や緊張を和らげ、寝つきを良くする働きがあります。主な副作用として、味覚異常、傾眠、頭痛、浮動性眩暈、注意力障害、うつ病、口渇、口腔内不快感、口内乾燥、下痢、便秘などがあります。用法は、就寝前に口から服用します。
ベンゾジアゼピン系
超短時間型
トリアゾラム(ハルシオン)
ハルシオンは不眠症や睡眠障害に対して処方する薬です。非常に作用時間が短くて朝に眠気が残りにくい薬ですが、依存性が強いため、現在はほとんど使われません。当クリニックでは、他院で長期に処方されていた場合は、処方することもありますが、新しくトリアゾラムを開始することはまずありません。寝つきが悪い、熟睡できないなどの不眠症状を改善します。不安や緊張を和らげ、寝つきを良くする働きがあります。主な副作用として、残眠感、眠気、ふらつき、頭重感、だるさ、眩暈、頭痛、倦怠感、譫妄、振戦、幻覚があります。
用法は、就寝前に口から服用します。
短時間型
レンドルミン(ブロチゾラム錠)
レンドルミンは不眠症や睡眠障害に対して処方する薬です。短時間作用型の睡眠薬で、寝つきが悪い、熟睡できないなどの不眠症状を改善します。不安や緊張を和らげ、寝つきを良くする働きがあります。主な副作用として、残眠感、眠気、ふらつき、頭重感、だるさ、眩暈、頭痛、倦怠感、譫妄、振戦、幻覚があります。用法は、就寝前に口から服用します。
エバミール/ロラメット(ロルメタゼパム錠)
主に不眠症の短期治療に使用し、入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒の改善に効果があります。即効性があり、肝臓への負担がすくなく、他の薬との相互作用が少ない点も特徴です。主な副作用として、眠気やふらつき、高齢者ではせん妄があります。依存性があるため、長期使用を避け、急な中止を避けて髭右します。また、運転や危険を伴う機械操作を控える必要があります。
リスミー(リルマザホン錠)
主に不眠症の治療に使用し、入眠障害だけでなく中途覚醒や早朝覚醒にも効果があります。自然な眠気に近い穏やかな効き方で睡眠時間全体をカバーするような作用時間を持ちます。抗不安作用もあるため、不安や緊張が強い場合にも有効です。主な副作用として眠気やふらつき、高齢者ではせん妄があります。また依存性にも注意が必要です。
デパス(エチゾラム錠)
主に不安や緊張、抑うつ、睡眠障害などに使用する薬です。即効性があり、抗不安作用と筋弛緩作用があります。催眠作用が強いため、入眠障害や中途覚醒にも効果が期待できます。主な副作用として、眠気やふらつき、依存性、高齢者ではせん妄があります。睡眠薬として使用しますが、診療報酬制度上は抗不安薬として算出されます。
サイレース(フルニトラゼパム錠)
主に不眠症の治療に使用され、強い催眠・鎮静作用があります。入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒に効果があります。即効性があり、睡眠時間全体をカバーする作用時間があります、麻酔前投与薬としても使用されます。主な副作用として、眠気やふらつき、倦怠感、高齢者ではせん妄があります。長期使用により依存性が生じる可能性があり、漠然をした使用を避けていきます。また、運転や危険を伴う機械操作は控える必要があります。
中間型
ユーロジン(エスタゾラム錠)
主に不眠症の治療に使用し、入眠障害や中途覚醒、早朝覚醒に効果があります。即効性があり、抗不安作用があるため、不安や緊張が強い患者さんにも使用します。緑内障に関する注意喚起がないことも特徴です。主な副作用として、眠気やふらつき、高齢者ではせん妄があります。長期使用により依存傾向が生じることもあるため、漠然として使用を避ける必要があります。また、急な中止は離脱症状を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
ベンザリン/ネルボン(ニトラゼパム錠)
ベンザリン/ネルボン(ニトラゼパム)は、主に不眠症の治療に使用され、入眠障害や中途覚醒、早朝覚醒に効果が期待できます。即効性があり、抗不安作用が持続するため、不安や緊張が強い患者さんにも使用できます。また、抗てんかん薬としての適応もあり、90日まで処方することができます。主な副作用として、眠気やふらつき、高齢者ではせん妄があります。長期使用により常用量依存が生じる可能性もあり、漠然として使用を避けるべき薬です。また急な中止は離脱症状を引き起こす可能性がありますので、注意が必要です。
ロヒプノール(フルニトラゼパム)
不眠症の治療に使用され、強い催眠・鎮静作用があります。即効性があり、入眠障害や中途覚醒、早朝覚醒に効果があります。また、筋
長期間型
ドラール(クアゼパム錠)
ドラールは不眠症や睡眠障害に対して処方する薬です。長時間作用する睡眠薬で中途覚醒や早朝覚醒がひどい方に処方します。不眠症や寝つきが悪い、熟睡できないなどの不眠症状を改善する薬です。不安や緊張を和らげ、睡眠を持続させる働きがあります。用法は、就寝前に口から服用します。
メラトニン受容体作動薬
ロゼレム(ラメルテオン錠)
ロゼレムは不眠症や睡眠障害に対して処方する薬です。寝つきが悪い、熟睡できないなどの不眠症状を改善します。脳内の体内時計をつかさどる部位に作用し、睡眠覚醒リズムを調節する働きがあります。主な副作用としては、頭痛、倦怠感、眩暈、眠気、発疹、便秘、悪心、悪夢、血中プロラクチン上昇があります。用法は、就寝前に口から服用します。
メラトベル(メラトニン錠)
メラトベルは、自然な眠気を促進させる睡眠薬です。主に小児期の神経発達症(発達障害)に伴う入眠困難に使用します。体内時計を調節し、入眠障害を改善する効果があります。依存性が極めて低く、自然な睡眠を誘導します。主な副作用として、眠気や頭痛があり、高所での活動や機械操作に注意が必要です。当クリニックでは、子どもの発達障害治療を行っていないため、使用することはほぼありません。
オレキシン受容体拮抗薬
ベルソムラ(スボレキサント錠)
ベルソムラは不眠症や睡眠障害に対して処方する薬です。覚醒を促す物質の働きを抑え、寝つきが悪い、熟睡できないなどの不眠症状を改善します。主な副作用としては、悪夢、傾眠、頭痛・頭重感、疲労、浮動性眩暈、入眠時幻覚、動悸、睡眠時随伴症、夢遊症があります。
用法は、就寝前に口から服用します。
デエビゴ(レンボレキサント錠)
オレキシン受容体拮抗薬で、脳の過度な興奮を抑えて、生理的な睡眠をとりやすくする薬です。依存性がかなり少なく、寝つきのところに効果を感じやすい薬で、初回の睡眠薬としてルネスタと同様によく処方する薬です。依存性のあるハルシオンやレンドルミンなどの薬をデエビゴに置き換えて、睡眠薬全体を減薬する薬としても当クリニックではよく処方します。半減期は20時間と長いですが、効果時間自体は6-8時間程度です。2.5 mgないし5 mgで開始して、効果が不十分であれば10 mgまで増量していきます。ベルソムラが2種類のオレキシン受容体を拮抗するのに対して、1種類のより睡眠と関わりが強い受容体に拮抗するので、眠気を持ち越すなどの副作用少ない薬です。まれに、金縛りを起こすことがあるので、その際は必ず主治医に相談ください。
バルビツール酸系
ラボナ(ペントバルビタールカルシウム錠)
ラボナは、不眠症や麻酔前投薬、不安緊張状態の鎮静に使用します。即効性があり、強い催眠・鎮静作用があります。依存性が高く、長期使用を避けるべき薬です。主な副作用として、目眩や悪心、頭痛があり、重大な副作用には皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)や薬物依存があります。妊娠中や授乳中の女性への投与は避ける必要があります。
イソミタール(アモバルビタール錠)
中期作用型の睡眠薬で不眠症や不安緊張状態の鎮静に使用します。即効性があり、強い催眠・鎮静作用を持ちます。20~30分で発現し、作用持続時間は3~6時間です。副作用として、皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)や薬物依存のリスクがあります。急激な減量や中止により離脱症状が発現することがあります。第2種向精神薬に指定され、処方は14日間に制限されています。
その他
抗うつ薬
トラゾドン(トラゾドン塩酸塩錠)
トラゾドンは不眠症や睡眠障害、うつ病に対して処方する薬です。元々は抗うつ薬として開発されましたが、睡眠の質を改善する作用が強く不眠に対しても用いられるようになりました。憂うつな気持ちや、不安やイライラ、やる気がなくなるなどの心の症状や、食欲がなくなる、眠れないなどの体の症状を改善します。脳内の神経伝達物質(セロトニン)の量を増やすことにより、憂うつな気持ちや落ち込んでいる気分を和らげる働きがあります。主な副作用としては、便秘、低血圧、動悸、失神、徐脈、不整脈、高血圧、起立性低血圧、眠気、眩暈、ふらつきがあります。用法は、1日に1~数回、口から服用します。
抗精神病薬
抗精神病薬は、ドパミンD2受容体をブロックすることで鎮静作用をもたらします。特に非定型抗精神病薬は、セロトニン2A受容体もブロックするため、睡眠を深くする効果も期待できます。ただし、抗精神病薬の使用には慎重な判断が必要で、副作用のリスクも考慮する必要があります。