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過眠症

過眠症とは

過眠症は、夜間に十分な睡眠をとっているにもかかわらず、日中に過度の眠気を感じる睡眠障害です。主な症状には、日中の強い眠気、長時間の夜間睡眠、昼寝をしても眠気が改善しないことなどがあります。原因は完全には解明されていませんが、脳の覚醒システムの機能障害が関与していると考えられています。過眠症は日常生活や社会生活に大きな支障をきたす可能性があり、適切な診断と治療が重要です。治療には生活習慣の改善や薬物療法を用います。

常に(長時間)眠っていなくても過眠症…?

常に眠っていることが過眠症ではありません。過眠症の特徴は、十分な夜間睡眠を取っているにもかかわらず、日中に過度の眠気を感じることです。そのため、日中の強い眠気や長時間の夜間睡眠(10時間以上)をとっても眠気が改善しない、昼寝をしても眠気が解消されない、起床困難(なかなか起きられない)などが主な症状となります。常に眠っているのではなく、眠気と闘いながら日常生活を送っていることが多いです。


過眠症の原因

過眠症の正確な原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。主な要因として、脳内の覚醒システムの機能障害が挙げられます。特に、視床下部のオレキシン産生細胞の減少や機能不全が関連しているとされています。また、遺伝的要因も重要で、特定の遺伝子変異が過眠症のリスクを高める可能性があります。さらに、自己免疫疾患や脳の炎症、頭部外傷、うつ病などの精神疾患も過眠症を引き起こす要因となることがあります。生活習慣や環境要因も無視できません。不規則な睡眠習慣や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害も過眠症の症状を悪化させる可能性があります。


過眠症のセルフチェック
(初期症状)

睡眠に関する症状

  • 日中の過度の眠気
  • 長時間の夜間睡眠(10時間以上)
  • 昼寝をしても眠気が改善しない
  • 起床困難
  • 睡眠惰性(起床後も長時間眠気が続く)
  • 不規則な睡眠パターン

日中の症状

社会生活への影響

身体的症状

  • 頭痛
  • めまい
  • 食欲の変化
  • 体重増加

精神的症状

その他

  • 自動行動(意識がはっきりしないまま行動する)
  • 睡眠麻痺(目覚めた直後に体が動かせない)
  • 入眠時幻覚
  • 夢見の増加

過眠症の検査・診断

過眠症の診断は、主に詳細な問診と睡眠日誌の評価を通じて行います。問診では、睡眠パターンや日中の眠気の程度、生活習慣などを詳しく聞き取ります。客観的な評価として、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)や反復睡眠潜時検査(MSLT)を実施することがあります。PSGでは睡眠の質や量を、MSLTでは日中の眠気の程度を測定します。また、ナルコレプシーの可能性がある場合は、脳脊髄液中のオレキシン濃度の測定も行われます。これらの検査結果と症状を総合的に評価し、他の睡眠障害や精神疾患を除外した上で、過眠症の診断を行います。なお、終夜睡眠ポリグラフ検査などの検査が必要な場合には、連携する医療機関をご紹介します。

問診と睡眠日誌

症状の詳細、生活習慣、家族歴などを確認します。睡眠日誌をつけていただくことで、睡眠パターンを客観的に評価します。

多数睡眠潜時検査(MSLT)

日中の眠気の程度を評価するために行います。一定間隔で短時間の睡眠をとり、その入眠までの時間を測定します。
当クリニックではPSG検査は実施しておりません。必要な場合は、近隣の杏林大学病院国立精神・神経医療研究センター病院(NCNP病院)をご紹介いたします。

ポリソムノグラフィー(PSG)

睡眠時無呼吸症候群など他の睡眠障害を除外するために行う精密検査です。
当クリニックではPSG検査は実施しておりません。必要な場合は、近隣の杏林大学病院国立精神・神経医療研究センター病院(NCNP病院)をご紹介いたします。

過眠症とナルコレプシーの違い

過眠症とナルコレプシーは、どちらも睡眠障害ですが、異なる特徴を持っています。過眠症は、夜間に十分な睡眠をとっているにもかかわらず、日中に強い眠気を感じる状態です。患者さんは長時間の睡眠を必要とし、昼寝をしても眠気が解消されないことが多いです。一方、ナルコレプシーは、突然の強い眠気や睡眠発作が特徴で、昼間に意識を失うことがあります。ナルコレプシーには、情動脱力発作(カタプレキシー)や入眠時幻覚、睡眠麻痺などの症状も伴います。診断には問診や睡眠ポリグラフ検査が用いられ、過眠症は主に日中の眠気の程度が評価されますが、ナルコレプシーは特有の症状や脳脊髄液中のオレキシン濃度測定が重要です。

過眠症と間違えやすい(鑑別すべき)病気は?

過眠症の診断を確定するためには、他の疾患との鑑別が重要です。以下の疾患が類似した症状を引き起こす可能性があります。

ADHD(注意欠如・多動症)/ ASD(自閉スペクトラム症)による過眠

ADHDによる過眠

• 集中力の欠如:注意力の問題から疲労感が増し、過度な眠気を感じることがあります。
• 睡眠リズムの乱れ:夜更かしや不規則な睡眠習慣が眠気を誘発します。

ASDによる過眠

• 感覚過敏:環境刺激に敏感で、睡眠の質が低下し、日中の眠気につながることがあります。
• 生活リズムの固定化:特定のパターンに固執することで、睡眠時間が過度に長くなる場合があります。

睡眠時無呼吸症候群

• いびきや無呼吸エピソード:睡眠中に呼吸が一時的に止まる
• 起床時の頭痛:酸素不足によるもの
• 日中の眠気:夜間の睡眠が中断されるため

うつ病

• 気分の落ち込み:持続的な憂うつ感
• 興味・喜びの喪失:以前楽しんでいた活動への興味がなくなる
• 睡眠過多または不眠

うつ病

薬物やアルコールの影響

• 薬物副作用:一部の薬剤は眠気を誘発
• アルコール依存:睡眠の質が低下し、日中の眠気が増す


過眠症の治療法

薬物療法

中枢神経刺激薬を主に使用します。モダフィニルやメチルフェニデートなどが代表的で、覚醒状態を維持する効果があります。副作用として不眠や頭痛、食欲不振などに注意が必要です。

生活習慣の改善

規則正しい睡眠スケジュールの確立が重要です。就寝時間と起床時間を一定にし、日中の短時間の計画的な仮眠を取り入れることで、過度の眠気を軽減できます。また、適度な運動や光療法も効果的です。カフェインの摂取制限や睡眠環境の整備も重要な要素です。

認知行動療法

過眠症に関連する不適切な思考パターンや行動を修正し、より健康的な生活リズムを確立することを目指します。睡眠衛生指導や、眠気に対するコーピングスキルの向上などが含まれます。長期的な症状管理に効果的で、薬物療法と併用することでより良い結果が期待できます。

認知行動療法

原因疾患の治療

過眠症が他の疾患に起因する場合、その原因疾患の治療が重要です。例えば、睡眠時無呼吸症候群や甲状腺機能低下症などが過眠症の原因となっている場合、これらの疾患に対する適切な治療を行うことで、過眠症状の改善が期待できます。

最新の研究動向

神経伝達物質の研究

2023年の日本睡眠学会で発表された研究によると、過眠症患者ではヒスタミンやオレキシンといった神経伝達物質の異常が示唆されています。これにより、新たな治療薬の開発が期待されています。

遺伝的要因の解明

家族内発症のケースが報告されており、遺伝的要因の研究が進んでいます。将来的には、遺伝子検査によるリスク評価が可能になるかもしれません。