自分でできる暴露反応妨害法
- はじめに
- 暴露反応妨害法(ERP)とは
- 暴露反応妨害法の対象となる主な疾患
- 暴露反応妨害法の基本
- 自分でできる暴露反応妨害法のステップ
- 実践時のコツと注意点
- 深刻な症状がある場合は専門家の力を
- まとめ「恐怖があっても行動できる」
はじめに
「繰り返し手を洗わないと落ち着かない」「ある行為や確認をしないと不安で仕方がない」――強迫性障害(OCD)などでは、不安や恐怖を和らげるために強迫行為を繰り返し行うことがあります。
しかし、この行為が長期的に見ると不安をさらに強め、生活の質を下げてしまうこともあります。
そうした強迫行為を少しずつコントロールし、不安を段階的に克服する治療法が「暴露反応妨害法(ERP)」です。
本コラムでは、暴露反応妨害法とは何か、対象となる疾患、そして自分でできるセルフケアとしての実践方法や注意点を、心療内科の視点から解説します。
暴露反応妨害法(ERP)とは
暴露反応妨害法(ERP)は、認知行動療法の一種で、不安や恐怖を感じる状況に“あえて触れ”(暴露)、それに対して普段行っている回避や強迫行為を妨害する(反応妨害)というアプローチです。
これにより、「強迫行為をしなくても、大丈夫かもしれない」という学習が生まれ、不安への耐性が高まります。
暴露反応妨害法の対象となる主な疾患
暴露反応妨害法は、以下のような不安障害や強迫性障害に特に効果があると言われています。
- 強迫性障害(OCD): 汚染恐怖や確認強迫、数え強迫など
- 社交不安障害(SAD): 人前での緊張や回避行動
- 特定の恐怖症: 高所恐怖や閉所恐怖など
ただし、症状や重症度によっては専門家のサポートが必要になる場合もあるので、無理せず自己判断が難しいときは医師やカウンセラーに相談しましょう。
暴露反応妨害法の基本
ERPの基本となる考え方は、「苦手な状況をあえて体験する(暴露)」そして「不安や恐怖をやわらげるための反応(強迫行為)をやめる(反応妨害)」です。
例えば、
- 手洗い強迫がある人なら、少しずつ手を洗わずに我慢する時間を延ばす
- 確認強迫なら、「ドアの鍵を1回しか確認しない」ルールを作り、鍵を再度確認する行為を妨害
こうして、「行動しなくても大丈夫かも」という感覚を身につけることで、強迫行為が減少し、不安への耐性が高まります。
自分でできる暴露反応妨害法のステップ
以下は、セルフケアとしてERPを試す際の基本的なステップです。
無理をしすぎず、症状の軽い段階や専門家のアドバイスを得ながら進めると安全です。
1ヒエラルキー(恐怖・不安リスト)を作る
「弱めの不安」→「中程度」→「強い不安」の順にリストアップしましょう。
例:手洗い強迫なら「手袋をしたまま床に触れる(不安度3)」→「素手で床に触れる(不安度5)」→「トイレのドアノブを素手で触る(不安度8)」など。
2下のレベルから「暴露」し、反応(強迫行為)を妨害する
例えば「素手で床に触れても、手洗いをすぐにはしない」など、一定時間我慢してみましょう。
最初は数分など短く設定し、慣れたら時間を延ばことがポイントです。
3不安が減る感覚を観察・記録
「最初の10分は不安度8だったが、15分後に6に下がった」などメモを取りましょう。
成功体験を積むと次の段階に進みやすくなります。
4上のレベルに進んでいく
不安度が安定して下がったと感じたら、リストの次の恐怖度に挑戦しましょう。
急ぎすぎると挫折感を味わいやすいので注意が必要です。
5再発防止策を考える
調子が悪いときにどうするか、環境調整やサポート体制を見直しましょう。
実践時のコツと注意点
ERPは、計画的かつ焦らず取り組むことで効果が得やすくなります。以下を参考にしてください。
- 焦らず進める: 「早く治そう」と急いで難度の高いレベルに挑戦すると強い挫折感を招く
- 小さな成功体験を重視: 「少し手洗いを減らせた」「確認回数を1回減らせた」などを自分で褒める
- サポートを得る: 家族や友人に付き添ってもらったり、励ましをもらうと安心感が高まる
- 無理しすぎない: 体調不良やメンタルの辛さが強い時は無理に進めず、休息を優先する
深刻な症状がある場合は専門家の力を
もし強迫行為が激しく日常生活に大きく支障をきたしている、または自力では不安が強すぎると感じる場合は、専門家の助けを検討しましょう。
- 心療内科・精神科: 薬物療法(抗不安薬、抗うつ薬など)や専門的なERP指導を受けられます
- カウンセリング: 臨床心理士や公認心理師が進行するエクスポージャーのセッションや認知行動療法が有効です
- 家族教室: 家族向けのサポート・教育プログラムを通じて、周囲との連携を強化します
まとめ「恐怖があっても行動できる」
暴露反応妨害法(ERP)は、強迫性障害などに代表される不安や恐怖を、段階的に乗り越えていくための有効なアプローチです。
セルフケアとして取り組む際は、「無理なく小さな成功体験を重ねる」ことが重要。
自分で難しいと感じる場合は専門家に相談し、安全かつ計画的に進めましょう。
「恐怖を完全になくす」というよりも、「恐怖があっても行動できる」感覚を手に入れ、行動の自由を取り戻す――これがERPの大きな目的です。
当院でも、認知行動療法をはじめとする様々なアプローチをご用意していますので、強迫性障害や不安障害でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。