よくある質問5:では、精神科医は個々人に合わせた対応をしてくれないのか?

そういうわけではありません。医療というものは、その人の生活に寄り添ったものであるべきで、個別性は重んじられます。特に精神科は、標準的な治療というものがある程度幅があるものなので、患者さんの背景を考慮した上で、当院でできる医学的に合理的な範囲の治療方法をいくつか提示して患者さんに選んでいただいています。

例えば、間も無く卒乳予定の患者さんで症状として投薬が待てる状態なら、家族に家事負担の軽減をお願いした上で処方をしばらくまったり、過去に医薬品で大きな副作用が出てしまった患者さんで精神科の薬を飲むことに躊躇がある方には、薬以外の治療法も選択肢としてお伝えしたりします。

また精神病状態で興奮した患者さんが、「この投薬は間違っている」と訴えてきた場合に、興奮した患者さんと議論することは、相手の病状を悪化させるだけなので、医学的に合理的な範疇で患者さんの希望・納得される処方をすることもあります。もちろん、いくら興奮されていても、「寝られないから睡眠薬を極量以上に出してくれ」「海外に行くから、3ヶ月分いっぺんに処方してくれ」といった医学的に合理的でない対応を求められた場合は認められませんし、BMIが13で極度に痩せた患者さんが、通院がしんどいから近い当院で診察を受けたいと希望されても、内科的な管理ができない当院で治療をお引き受けすることはありません。

つまり精神科の診察でも医学的に合理的な範疇で患者さんの個別性を重視した対応はしますが、対応の幅は自由診療より狭くはなってしまいます。

よくある質問4:精神科医はカウンセリングを行わないのか?

精神科医も一定のカウンセリングを行います。しかし、その内容は主に疾患の説明、投薬についての指導、および病状のフォローアップ(と一部の科学的根拠が明白な認知行動療法の導入)に集中します。これは、精神科医のカウンセリングが保険診療の枠組みで提供されるため、具体的かつ明確な医学的根拠がある対応を求められているからです。

一方で、心理士のカウンセリングでは、患者さんの感情、思考パターン、行動、人間関係など、多くの要因を考慮して患者さんの個別のニーズや心理的な背景に深く寄り添い、個別化された心理的サポートを提供します。これらのアプローチは、個々の患者さんに合わせてカスタマイズされるため、標準化が困難であり、その結果、多くが自費診療の枠組みで提供されます。

例えば、情緒が安定しない彼氏と付き合って、気持ちがひどく落ち込み仕事が手に付かない患者さんの場合には、その仕事が手に付かない辛い精神状態が、神経細胞の機能障害を伴っているのかどうかを判定し、神経細胞が傷ついているときは投薬による治療を先行します。神経細胞の機能障害が疑われない時や神経細胞の機能障害がある程度回復した後は、症状をより安定させたり、再発を予防したりするために情緒が安定しない彼氏との向き合い方という思考パターンの改善を図っていく必要があると考えられます。しかし医師は、精神的に安定するという観点では、情緒が安定した人と一緒にいる方が一般的には精神的に安定しますというお話はできますが、患者さんの価値観に即した解決というのは、個々人で望ましいプロセスや結果が異なるので心理士の専門的なスキルが必要で精神科医は手出しできません。そしてこういった個別のアプローチが必要なものは、疾患ごとに標準化された手法ではないため保険診療の枠組みで行うことではありません。

ストレスコーピングの方法も同様です。科学的根拠の高い一般的なストレスコーピングの方法は診察中にご案内できますが、それはすでに行ってうまくいかなかったのだという場合には、患者さんの過去を遡ったり、現在の価値観や取り巻く環境など複数の要素を考慮して、時間をかけて1個1個の方法を試していくという個別のアプローチが必要になるので診察ではなくカウンセラーのカウンセリングで探してもらうことになります。

しかし電車の中で頻回にパニック発作を起こし、症状に対する不安から仕事に影響が出ているパニック障害の患者さんの診察では、投薬と病状フォローだけでなく、パニック障害という疾患に関するカウンセリングである心理教育と段階的暴露療法という認知行動療法の一部も、精神科医の診察中に行っていきます。これはパニック障害に関する疾患についての心理教育と段階的暴露療法に明白な科学的根拠があり標準化されているからです(重症度が高く個別のアプローチが必要な場合はカウンセラーによる認知行動療法を行います)。

このように診察中に、精神科医が思考パターンの改善に対する治療であるカウンセリングを行うこともありますが、あくまで疾患ごとに標準化された手法があり、個別のアプローチが不要な場合に限定されます。個別性が高くなると保険の枠組みで行うのは難しく、個人の価値観や個別性を重んじた解決を図るための専門的なスキルを持つカウンセラーが自費診療の枠組みで行うことになります。

よくある質問3:カウンセリングの多くに保険適応がない理由

簡単にお答えすると、個人の思考のパターンの改善には個別のアプローチが必要で、カウンセリングは、標準化が困難だからです。

保険診療は、疾患ごとに標準化された治療に対して適応されます。思考パターンの改善は一つ一つに個別のアプローチが必要であり、標準化ができていないため多くの場合保険適応になりません。

よくある質問2:診察と心理士によるカウンセリングの違いについて

精神症状は、神経細胞の働き、個人の思考パターン、さらには周囲の環境から影響を受けて生じます。診察では、主にこれらの因子がどのように症状に作用しているかを評価し、神経細胞に問題がある場合は薬剤の調整を行い、思考パターンに課題がある場合にはカウンセリングをご案内します。

つまり診察では医師が精神症状の評価と治療法の提案、薬剤の調整を行います。一方カウンセリングでは心理士が個人の思考パターンの改善を個別のニーズに応じてお手伝いします。診察は、その方法が科学的根拠に基づいているため保険適用で行われますが、カウンセリングは、思考パターンの改善という個別のアプローチを必要とし標準化が困難であるため多くは自費で行われます。

よくある質問1:精神科医の主な役割とは?

精神症状は、神経細胞の働き、個人の思考パターン、さらには周囲の環境からの影響を受けて生じます。精神科医は、これらの因子がどのように症状に作用しているかを評価し、治療計画を建てます。神経細胞の働きに問題が認められた場合には、薬剤の調整を行います。思考パターンに課題がある場合は、精神科医が一部のカウンセリングを行うことはありますが、個別的な深いアプローチが必要と判断される場合には専門的なスキルが必要なため心理士を紹介します。また、患者さんの周囲の環境に問題がある場合には、診断書の提供や会社・地域との連携を通じてサポートを行います。

つまり精神科医の主な役割は、診断と診断に基づいた治療計画の策定、病状のフォロー、必要に応じた薬剤の調整やカウンセリングの推奨、環境調整です。

感情の種類について

感情にはさまざまな種類があります。感情の表現を知ることで感情のセルフモニタリングやコントロールがしやすくなるのでご紹介します。

 

-一次感情、二次感情について-

感情には一次感情と二次感情があります。一次感情とは、基本感情のことを指します。基本感情とは、怒り、喜び、悲しみ、不安、驚き、嫌悪、恐怖など、一般的に認められている基本的な感情のことです。二次感情とは、複数の一次感情が混合して生じる感情のことを指します。一次感情が複雑に絡み合った状況では、一つの感情だけではなく、複数の感情が同時に生じることがあります。このような複合的な感情を二次感情と呼びます。

例えば、悲しみと怒りが混じり合った感情があるとします。この場合、悲しみや怒りだけではなく、二次感情として、失望、恥ずかしさ、嫌悪感などが生じることがあります。

 

-代表的な一次感情-

1. 喜び(Joy)

喜びは、幸福感や満足感、愉快感などのポジティブな感情です。例えば、思いがけない良い出来事があったときや、好きな人と過ごすときなどに感じることがあります。

2. 悲しみ(Sadness)

悲しみは、悲嘆や失望、落胆などのネガティブな感情です。例えば、失恋や人間関係のトラブルなどが原因で感じることがあります。

3. 怒り(Anger)

怒りは、不満や不快感、怒りや敵意などのネガティブな感情です。例えば、自分自身や大切な人が脅かされたときや、不公平な扱いを受けたときに感じることがあります。

4. 不安(Anxiety)

不安は、緊張や不安感、恐怖心などのネガティブな感情です。例えば、試験やプレゼンテーションなどの緊張した状況や、未来に対する不安などが原因で感じることがあります。

5. 驚き(Surprise)

驚きは、びっくりや驚き、興奮などの感情です。例えば、思いがけない出来事が起きたときや、衝撃的なニュースを聞いたときなどに感じることがあります。

6. 恐怖(Fear)

恐怖は、恐怖心や不安感、脅威に対する不安などのネガティブな感情です。例えば、危険な状況に置かれたときや、怖い話を聞いたときなどに感じることがあります。

 

-代表的な二次感情-

1. 嫉妬(Envy)

嫉妬は、他人が持つ何かを自分が持っていないと感じ、その人を妬んでしまう感情です。悔しさや怒り、恥ずかしさなどの一次感情が混ざり合って生じます。

2. 緊張感(Tension)

緊張感は、不安や緊張、不快感などの一次感情が混ざり合って生じる感情です。例えば、プレゼンテーションや試験などの緊張した状況や、予期しないことが起こったときに感じることがあります。

3. 罪悪感(Guilt)

罪悪感は、何か過ちを犯したときに感じる、自責の念や後悔、恥ずかしさなどの一次感情が混ざり合って生じます。

4. 疑念(Suspicion)

疑念は、不信感や疑わしさなどの一次感情が混ざり合って生じます。例えば、他人の言動や行動に対して疑いを持ったときに感じることがあります。

5. 焦燥感(Impatience)

焦燥感は、何かを待ちわびるときや、物事が遅れたときに感じる感情で、不安やイライラ、怒りなどの一次感情が混ざり合って生じます。

6. 羨望(Jealousy)

羨望は、他人が持っている何かを自分が持っていないと感じ、その人に対して敵意や嫉妬心を持つ感情です。羨望は、怒りや嫉妬、悲しみなどの一次感情が混ざり合って生じます。

7. 期待感(Anticipation)

期待感は、何かが起こることを予想したときに感じる感情で、喜びやワクワク感、不安などの一次感情が混ざり合って生じます。

 

-最後に-

これらの用語を使って、自分に起きた感情をラベリングしてみてください。

感情と気分の違いについて

感情と気分の違いについてよく質問を受けるので、ここに記載しておきます。
感情と気分は、似ているようで異なる概念です。

 

感情は、刺激に対して生じる一時的で明確な心の状態であり、怒り、喜び、悲しみ、不安、驚き、嫌悪、恐怖などの基本的な感情があります。感情は、自分自身や他者、外界に対する反応を表現し、行動を引き起こすことがあります。

一方、気分は、感情よりも抽象的なもので、ある期間持続する、やや漠然とした心身の状態のことです。感感情に影響を与えることがあり、例えば、気分が落ち込んでいるときは、感情が悲しみや不安に傾きやすい傾向があります。

 

感情と気分の違いは、時間的な面、明確性の有無、行動への影響、発生原因などがあります。
感情は、刺激に対して即座に生じ、明確で具体的な状態を表現しますが、気分は、時間をかけて変化する、より抽象的な状態を表現します。
また、感情は、直接行動に影響を与えることがありますが、気分は、間接的に行動に影響を与えることがあります。
さらに、感情は、外部の刺激に対して生じる反応である一方、気分は、内部の要因や自分自身の状態によって生じる場合があります。

 

医師に気分について聞かれたら、ここ1~2週間単位で、どのような感情が出やすかったかを振り返って教えてください。

気分のセルフモニタリングのススメ

-気分のセルフモニタリングとは-

気分のセルフモニタリングとは、自分自身の気分や感情の変化を追跡し、把握することです。自分自身の気分の変化を把握することで、ストレスや不安を軽減し、自分自身の感情管理能力を向上させることが期待できます。

 

-メリットは?-

1. 自己理解を深めることができる

気分をセルフモニタリングすることで、自分自身の感情や行動のパターンを把握することができます。自己理解を深めることで、自分自身の強みや改善すべき点を把握することができ、自己成長につながります。

2. 行動変容を促進することができる

気分をセルフモニタリングすることで、自分自身の行動を客観的に把握することができます。自分自身の行動パターンを把握し、改善点を明確にすることで、自分自身の行動変容を促進することができます。

3. ストレスや不安を軽減することができる

気分をセルフモニタリングすることで、ストレスや不安の原因を明確にすることができます。ストレスや不安の原因を明確にすることで、対策を打つことができ、ストレスや不安を軽減することができます。

4. 自分自身の感情管理能力を向上することができる

気分をセルフモニタリングすることで、自分自身の感情を客観的に把握することができます。自分自身の感情を把握し、適切に管理することで、感情管理能力を向上することができます。

5. 目標達成をサポートすることができる

気分をセルフモニタリングすることで、自分自身の進捗状況や課題を把握することができます。自分自身の進捗状況や課題を把握することで、目標達成をサポートすることができます。

 

-セルフモニタリングを強化する方法は?-

1. 感情のラベリングについて

感情のラベリングとは、自分の感情を言葉で表現することです。例えば、イライラしている、怒っている、落ち込んでいるなど、具体的な感情を言葉で表現します。感情のラベリングを行うことで、自分自身の感情に気づきやすくなります。

例えば、仕事でうまくいかなかったときは場合には、以下のような感情をラベリングすることができます。

・イライラしている
・自己嫌悪に陥っている
・悔しい気持ちがある

これらの感情をラベリングすることで、自分がどのような感情を抱いているのかを明確にすることができます。また、感情をラベリングすることで、感情に対する自己理解を深め、感情の管理に役立ちます。

 

2. 感情日記をつける

感情日記をつけることで、自分の気分の変化を追跡することができます。感情日記は、手帳やノートに書いたり、スマートフォンのメモ機能でつけたりすることができます。

感情日記をつける際には、以下のような項目を書き出してみてください

・感情の種類(例:イライラ、不安、喜びなど)
・その感情が引き起こされた出来事
・感情に対する自分の反応

感情日記をつけることで、自分自身の気分の変化を把握し、感情の管理に役立ちます。

 

3. 身体的な反応に注目する

自分自身の身体的な反応に注目することで、自分自身の感情を理解することができます。例えば、自分が緊張しているときには、心拍数が上がっていたり、手が汗ばんでいたりすることがあります。
身体的な反応に注目することで、自分自身の感情を理解することができます。また、自分自身の身体的な反応を観察することで、自分自身が緊張する状況を回避することができます。

 

4. 自己評価のバランスをとる

自己評価のバランスをとることで、自分自身の気分を安定させることができます。自己評価が低すぎると、自分自身に対する信頼が失われ、ネガティブな気分になってしまいます。一方、自己評価が高すぎると、現実とのギャップを感じることがあります。

自己評価のバランスをとるためには、以下のような方法が有効です。

・自分自身の強みを挙げる
・自分自身の改善すべき点を挙げる
・他人からのフィードバックを取り入れる

自己評価のバランスをとることで、自分自身の気分を安定させることができます。

 

5. セルフケアをする

ストレスや疲れがたまると、気分が落ち込んでしまうことがあります。セルフケアをすることで、ストレスを解消し、気分を良くすることができます。

セルフケアとは、自分自身の健康や幸福を維持するための活動のことです。例えば、以下のようなセルフケアがあります。

・趣味に打ち込む
・ストレッチをする
・睡眠時間を確保する
・好きな食べ物を食べる

セルフケアをすることで、気分を良くし、ストレスを解消することができます。

 

-最後に-

完璧にと考えずに、まずは気楽に自分の感情や気分を意識してみてください。
毎日の気分、意欲、思考の内容の3項目を上矢印、横矢印、下矢印で記録に残すだけでも十二分だと思います。

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