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自閉症スペクトラム(ASD)のソーシャルスキルトレーニング(SST)

ソーシャルスキルトレーニング(SST)  / 心理療法  / 自閉症スペクトラム(ASD)  / 認知行動療法

はじめに

はじめに自閉症スペクトラム障害(ASD)は、「コミュニケーション」や「社会性」の分野に特性が現れやすい発達障害です。
日常生活や職場、学校で他者と関わるなかで、「相手の意図が読みにくい」「自分の気持ちをうまく伝えられない」といった悩みを抱える方も少なくありません。

こうした対人スキルを鍛えるための方法の一つとして注目されているのが「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」。
本コラムでは、心療内科の視点から、ASDの方が自分で取り組めるSSTの基本的なポイントや、日常で活かすためのヒントを紹介します。

自閉症スペクトラム障害(ASD)


SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは?

SST(Social Skills Training)は、対人関係で必要となる様々なスキル(あいさつ・会話のしかた・相手の表情の読み取りなど)を、実践的に身につけるためのトレーニングです。
グループセッションやロールプレイなどで行うケースが多いですが、自分ひとりでも基本のステップを応用し、セルフトレーニングとして取り組むことが可能です。


ASD(自閉症スペクトラム障害)の特性と対人関係の困難

ASD(自閉症スペクトラム障害)の方は、

  • 言外の意図や表情、ニュアンスを読み取りにくい
  • 会話の“間”や“順番”が取りづらい
  • 興味のある分野では熱中する一方、他の話題に集中しづらい
  • 相手が何を求めているのか分からず、不安やストレスを感じやすい

こうした困難は、社会的ルールやコミュニケーション方法を明確に学べば、ある程度補える可能性があります。その手段の一つがSSTです。


なぜ自分でSSTができる?セルフケアの有効性

SSTは専門家によるグループトレーニングが一般的ですが、自己学習の形でも効果が期待できます。

具体的には、

  • ロールプレイ動画や教材を活用し、一人で場面練習を行う
  • マニュアル化された会話ステップを学び、実際の場面で試す
  • 自己観察を行い、「どこでつまづきやすいのか」「どう改善できるか」を考える

自分のペースで進められるため、時間や場所に縛られず、日常の中でこまめに練習できる利点があります。


自分でできるSSTの流れ

SSTをセルフケアで行う場合、以下のステップを意識すると効果的です。

1課題や目標を明確にする

「あいさつが苦手」「電話対応が不安」など、具体的に「どの場面で、どんな行動を学びたいか」を設定。

2模範を学ぶ

参考動画、書籍、専門家のアドバイスなどを通じて、「望ましい振る舞い」を観察する。
例:会話の“切り出し方”、アイコンタクト、相手の表情の見方など。

3ロールプレイ(イメージ)練習

自宅で一人でも、想定場面をイメージしながらセリフを口に出してみる。
鏡を使ったり、スマホで録画して客観視するのもおすすめです。

4実際の場面で試す

いきなり難易度の高い場面ではなく、安心できる相手や状況から挑戦。
例:家族や仲の良い友人と会話練習。

5振り返り・フィードバック

「どこがうまくいったか」「どのタイミングで言葉に詰まったか」などをメモ。
改善点を次の練習で意識。


実践例:日常で使えるSSTのシナリオ

以下のシナリオは、自分でSSTを行うときの簡単なイメージです。

  • あいさつの場面: 「おはようございます」と挨拶し、相手の反応を見て、「笑顔で返事があったら笑顔で返す」など。
    ・ 一人でロールプレイ:鏡を使い、姿勢や表情を意識しながら声の大きさを調整。
  • 電話対応: 「職場に電話するとき」「問い合わせ電話を受ける」など、スクリプトを用意。
    ・ 声のトーンや言葉遣いをチェックしながら練習。
  • 頼みごとをする場面: どんな言葉で切り出すか、相手が困らないかの配慮などを踏まえた台本を作り、一人で音読。

実際に使うフレーズを紙に書き出すだけでも、安心感とスムーズさが得られやすくなります。


継続していくうえでのポイント

SSTを自分ひとりで続けるには、モチベーション維持が大きな課題です。
以下のヒントを参考にしてください。

  • 小さな成功体験: 「今日は挨拶で失敗しなかった」「一つ質問ができた」などをメモし、自分をほめる
  • 仲間との情報交換: SNSや発達障害サポートグループを活用し、同じ悩みを持つ仲間とコツを共有
  • 環境調整: 職場や家族にも、自分がコミュニケーション練習をしていることを伝え、協力を得る
  • 専門家のアドバイス: 自助だけでは行き詰まったら、医師やカウンセラーに相談し、専門的な指導を受ける

困ったら専門家や家族の力を

ASDのを進めるうえで、家族や友人に協力してもらうと、ロールプレイやフィードバックがやりやすくなります。
また、以下のような専門家の助けも検討しましょう。

  • 心療内科・精神科: ADHDASDなどの併発を確認し、薬物療法や認知行動療法の提案
  • 発達障害専門のカウンセラーやコーチ: 個別プログラムでSSTや日常の対人スキルを習得
  • グループセッション: 対人スキルを他の参加者と共に実践し、相互フィードバックを受ける

まとめ

ASDを持つ方が日常生活で感じるコミュニケーションや社会性の難しさを、少しずつ解消していく手段としてソーシャルスキルトレーニング(SST)は有効です。
自分でできる方法としては、

  • 学びたい場面(挨拶や電話対応、頼みごとなど)を具体的に決める
  • マニュアルや動画を見て模範を学ぶ
  • ロールプレイを繰り返し、実際の場面で試してみる
  • 振り返り(フィードバック)による改善

というプロセスをコツコツ継続しましょう。
一度に完璧を求めるのではなく、「ちょっとずつ上達」を目指すことが大切です。

もしうまく進まない、大きな不安や挫折感がある場合は、心療内科やカウンセラーなど専門家の力を借りてみると良いでしょう。
自分の特性を理解し、小さな成功を積み重ねながら、自分らしいコミュニケーションを手に入れていきましょう。


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