自閉症傾向のある方の「こだわりの強さ」と社会生活への影響:こだわりを手放すヒント
【医療機関からのご案内】
自閉症スペクトラム(ASD)の特性をお持ちの方は、「こだわりの強さ」や「同じ手順や routine を崩したくない」などの傾向が見られることが少なくありません。
これらの特性は、個人の安心感や安定感を高める一方で、社会生活や対人関係で柔軟に対応しにくい場面を生むことがあります。
本コラムでは、こだわりの強さが社会生活に与える影響と、こだわりを上手に手放すためのヒントを当院の視点から解説いたします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個々の状況や治療方針を必ずしも示すものではありません。気になる場合は、専門家(医師・カウンセラー)にご相談ください。
目次
- 1. 「こだわりの強さ」とは? 自閉症傾向でよく見られる特徴
- 2. 社会生活への影響:具体的な例
- 3. なぜ「こだわり」が生まれるのか
- 4. こだわりを手放すヒント
- 5. 専門家や家族との連携の大切さ
- 6. まとめ:安心感を保ちつつ、柔軟さを育む
1. 「こだわりの強さ」とは? 自閉症傾向でよく見られる特徴
自閉症スペクトラム(ASD)を持つ方は、強いこだわりやパターン化された行動に対する執着が見られることがあります。
たとえば、
- 特定の順番やルーティンを絶対に守りたい
- 好きな話題を延々と話し続ける
- 同じ場所で同じ物を使わないと落ち着かない
こうした「こだわり」は個人差が大きく、安心感や自己表現を支える一面もある一方、社会生活や周囲との調和が難しくなるケースもあります。
2. 社会生活への影響:具体的な例
「こだわりの強さ」が強く表れると、日常生活や職場、学校などで以下のような困難が生じやすくなります。
- 柔軟な対応ができずトラブルに: 予定や手順が変わった際に強い不安を感じ、周囲との衝突やパニックを起こす
- 時間管理が難しくなる: 一つの作業や興味に没頭し、締め切りや約束の時間を守れない
- 他人の提案を受け入れにくい: 自分のやり方を崩したくないため、チーム作業や共同プロジェクトが進みにくい
- ストレスが溜まる: 周りから「融通が利かない」と思われる反面、本人は「変えられると不安」というジレンマで疲弊する
これらの影響は、本人の特性と周囲の理解や配慮の有無によって大きく異なります。
3. なぜ「こだわり」が生まれるのか
自閉症傾向を持つ方にとって、予測できない変化や曖昧な状況は大きなストレス要因です。
「こだわり」を持つことで、
- 世界の理解や秩序を保つ: 決まった手順やルールがあると安心
- センサーの過敏さを調整: 特定の刺激や物に集中することで、過剰な情報をシャットアウトできる
- 自己を表現する方法: 趣味や興味が強い分野にこだわることで、アイデンティティを確立する
したがって、こだわりを完全に否定するのではなく、適切に活かしつつ柔軟性を持てるようにするアプローチが望ましいでしょう。
4. こだわりを手放すヒント
「こだわり」を無理やり捨てると不安やストレスが強まる可能性があります。
ここでは、段階的に柔軟性を高めるためのヒントを紹介します。
-
①優先順位をつける
こだわりの全てを変えようとすると疲弊しがち。日常生活や職場で特に支障が大きい部分から順に緩和するよう努める。 -
②少しずつ変化を取り入れる
例えば、毎日決まったメニューを食べる場合、週1回だけ違うメニューに挑戦してみる。
急激な変化ではなく小さな変化がストレスを緩和する。 -
③成功体験を記録する
「今日はいつもと違う道で行けた」「メニューを変えても大丈夫だった」など、小さな成功をメモする。
達成感や自信が育つ。 -
④ロールプレイやSST(ソーシャルスキルトレーニング)
心療内科や支援センターで、グループワークやロールプレイを通じて、柔軟な対応の練習をする。 -
⑤必要に応じて専門家と相談
強い不安や混乱がある場合、医師や心理士による支援を受ける。
薬物療法や認知行動療法が役立つケースもある。
5. 専門家や家族との連携の大切さ
こだわりを手放す過程では、周囲の理解やサポートが大きな力になります。
– 家族には「ちょっとだけ変えてみる」ことに挑戦している旨を伝え、見守ってもらう
– 職場や学校でも、上司や教員など信頼できる人に相談し、過度な変更や急な変化は避けてもらう
– 医療・福祉の専門家(ソーシャルワーカー、ケースワーカーなど)に生活面での困り事を相談し、環境調整を行う
こうした連携により、安心感を持って挑戦し、失敗しても一緒に考えられる環境が得られます。
6. まとめ:安心感を保ちつつ、柔軟さを育む
自閉症傾向のある方にとって、「こだわりの強さ」は安定感を得るための大切な手段ですが、同時に社会生活や対人関係での柔軟性を妨げる要因になることもあります。
このバランスをうまく保つためには、優先順位を決めた上で少しずつ変化に慣れ、小さな成功を積み重ねるアプローチが有効です。
周囲の人や専門家と協力しながら、こだわりを完全に消すのではなく、必要な部分だけ柔軟に対応できるようにしていくことが理想といえるでしょう。
もし強い不安やストレスを感じる場合は、心療内科やカウンセリングなどの専門的サポートを検討してください。当院でも、個々の特性や日常の困りごとに合わせたアドバイスを行っておりますので、お気軽にご相談ください。