自閉症傾向の人が「相手の立場に立って考える」ための構造化された方法:対人理解を深めるステップガイド
【はじめに】
相手の気持ちや考えを理解しようとしても、「どのように考えればよいか分からない」「一度に情報が多すぎて混乱する」という方は、自閉症スペクトラム(ASD)の特性を持つ人の中に少なくありません。
そのような時に役立つのが、「構造化された方法」を用いて、一歩ずつ相手の立場を理解する視点を学ぶことです。本コラムでは、具体的なステップやツールを示しながら、わかりやすく解説します。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、医療行為の代替とはなりません。深刻な困難を抱えている場合は、専門家や心療内科へご相談ください。
目次
- 1. 自閉症スペクトラムと「相手の立場に立つ」こと
- 2. 相手の視点を理解するための構造化とは?
- 3. 具体的なツール・方法
- 4. 練習ステップ:構造化された視点取得の進め方
- 5. 日常でのセルフケアと工夫
- 6. まとめ:対人理解を深める小さな一歩
1. 自閉症スペクトラムと「相手の立場に立つ」こと
自閉症スペクトラム(ASD)の特性を持つ人は、コミュニケーションや社会的相互作用で困難を感じやすいとされています。その一環として、「相手の立場」を想像したり、暗黙の意図を読み取ったりするのが難しい場合があります。
しかし、「相手の気持ちを理解する」ことが苦手であっても、適切な方法でステップを踏みながら学ぶことで、苦手意識を少しずつ和らげられる可能性があります。
2. 相手の視点を理解するための構造化とは?
「構造化」とは、複雑な課題を理解しやすい形に整理し、段階的に取り組むことを指します。
ASDの特性を持つ方が相手の立場を理解するとき、無数の情報(表情、ジェスチャー、文脈、言外の意味など)が一度に飛び込んでくると、混乱してしまうことがあります。
そこで、視覚的なツールやステップ化された手順を使いながら「相手の気持ちや状況」を段階的に推測する方法を学ぶと、客観的・論理的に整理しやすくなり、パニックや誤解を減らせるのです。
3. 具体的なツール・方法
相手の視点を理解しやすくするために用いられる、代表的な構造化ツールをご紹介します。
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コミック会話(Comic Strip Conversations)
紙やホワイトボードに棒人間や吹き出しを描き、誰が何を考え、どんな気持ちで発言しているのかを可視化する。
相手の吹き出しには「○○と思っているかも」、自分の吹き出しには「私はこう感じている」を記入し、異なる視点を比較する。 -
ソーシャルストーリー(Social Stories)
ある場面での適切な行動や他者の意図を、短い物語形式で書き下ろす。
「Aさんがこう言ったのは、○○だから。私ができることは~」のように、論理的に説明することで、人の動機や背景を理解しやすくなる。 -
視点取得カード
「私の立場」「相手の立場」という2つのカードに、それぞれどんな気持ちや考えがあるかを書き込む。
2枚を対比することで、違いや共通点をわかりやすく整理できる。 -
ステップシート
相手の状況・相手の考え・自分の考え・選べる行動・その結果などを項目別に書き出せるシート。
瞬間的に処理しきれない情報を、後からゆっくり検討するのに適している。
4. 練習ステップ:構造化された視点取得の進め方
具体的なツールを使いながら、「相手の立場に立つ」練習をどのように進めればよいのか、例を示してみます。
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①場面の選定
まずは、困った経験や誤解が生じた場面などを1つ選ぶ。
例:職場で上司に注意され、理由が分からず落ち込んだ場面。 -
②視覚化ツールで状況を整理
コミック会話やステップシートを使い、自分が言ったこと・相手が言ったこと、その時の気持ち、背景などを書き出す。
例:上司の吹き出しには「忙しそうで話しかけにくかったかも」、自分の吹き出しには「急に怒られて怖かった」など。 -
③相手の視点を推測する
相手はどんな目的や感情を持っていた可能性があるか、客観的に想像して書き足す。
例:「上司は提出物の締め切りが迫って焦っていたかもしれない」など。 -
④行動・コミュニケーションの選択肢を検討
「こう伝えたら、相手はどう受け取る?」「こう行動するのはどうか?」と複数案を考える。
例:「すぐには返事できなかったが、『後で確認して報告します』と伝えればスムーズだったかも。」 -
⑤実際に試し、フィードバック
次に同じような場面があれば、検討したコミュニケーションを実践。
うまくいった点・想定外の点を再度書き出し、改善策を練る。
こうした流れを繰り返すことで、情報を整理する力や相手の視点を推測するスキルが少しずつ身についてきます。
5. 日常でできるセルフケア:孤立感を和らげ、人間関係を築くために
日常生活で「相手の立場に立つ」練習をする際、意識すると良いセルフケアのポイントをまとめました。
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①無理のない範囲で実行
最初から完璧に相手の気持ちを読み取るのは難しいので、短い会話や身近な人とのやり取りから段階的に挑戦する。 -
②書く・描く習慣を持つ
頭の中で考えるだけでは混乱しやすい。紙やアプリに整理することで、客観的に把握しやすくなる。 -
③ロールプレイを家族や友人に手伝ってもらう
「こんな場面があって困った。セリフのやり取りを一緒に再現してもらえる?」など、協力を仰ぐ。
実際の言葉のトーンや表情を加味できるため、よりリアルな練習が可能。 -
④一度に多くをしようとしない
ASD特性を持つ方は、一度に大量の情報を処理するのが難しい場合がある。
1つのシーンについて掘り下げる、ステップを細かく分けるなど工夫を。 -
⑤成功例もきちんと記録する
「今までうまくいった場面」の記録を残すことで、自己肯定感ややる気が維持しやすい。
失敗事例ばかりに注目せず、成功体験も大切に。 -
⑥必要に応じて専門家へ相談
どうしても難しいと感じる場合、心療内科やカウンセリングで専門家から指導を受ける。
対人関係療法やSST(ソーシャルスキルトレーニング)などのプログラムも検討。
こうしたセルフケアを習慣にすることで、「相手の気持ちを想像するスキル」が少しずつ育ち、コミュニケーションの円滑化や誤解や衝突の減少につながるでしょう。
6. まとめ:対人関係療法で“つながり”を取り戻す
自閉症傾向の方が、「相手の気持ちを推測する」「相手の立場に立って考える」ことに困難を感じるのは珍しくありません。
しかし、構造化された方法を活用し、視点取得の練習を段階的に積み重ねることで、苦手意識を和らげ、実生活でのコミュニケーションをスムーズにする可能性があります。
コミック会話やソーシャルストーリー、ロールプレイなどのツールは、自閉症スペクトラム特性に適した視覚的・論理的なアプローチとして有効です。
また、日常のセルフケアとして小さな成功体験を積み、客観的に情報を整理する習慣を持つことで、相手の気持ちや意図を少しずつ理解しやすくなります。
「分からない」「苦手だ」と感じる部分があるときは、一人で抱え込まずに家族や友人、心療内科などの専門家の力を借りることも選択肢の一つです。
結局、大切なのは「諦めずに続ける」こと。小さな一歩が積み重なれば、自閉症傾向があっても、対人関係での充実したコミュニケーションと“つながり”を築いていくことができるでしょう。