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広場恐怖症

広場恐怖症とは

広場恐怖症は、公共の場所や逃げ出すことが難しい状況に対する強い恐怖や不安を特徴とする不安障害です。症状は6か月以上続き、公共交通機関の利用や広い場所、閉鎖的な空間を避ける傾向があります。
原因は完全には解明されていませんが、生物学的要因(神経伝達物質の異常)、心理的要因(条件づけや認知の歪み)、環境的要因(ストレスフルな出来事)が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
治療法としては、認知行動療法(特に曝露療法)が最も効果的とされています。また、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬物療法も有効です。


広場恐怖症の原因

広場恐怖症の原因は、生物学的要因の他、心理的要因、環境的要因と大きく3つが考えられます。

生物学的要因

神経伝達物質の異常、特にセロトニン神経系の機能低下が関連しています。また、扁桃体や前頭前野などの脳部位の機能異常も指摘されています。セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなどが不安や恐怖の調節に関与しており、これらの異常が広場恐怖症の発症に関連すると考えられています。遺伝的要因も重要で、広場恐怖症の遺伝率は6割程度と考えられています。

心理的要因

古典的条件づけと回避学習が重要です。広場のような中性刺激がパニック発作と関連付けられ、恐怖反応を引き起こすようになります。また、「パニックが起これば死んでしまう」といった破局的思考が恐怖や不安を増幅させます。物事を否定的に考えてしまうマイナス思考の性格も原因の一つとして挙げられます。

パニック障害

環境的要因

ストレスフルなライフイベントが発症の引き金になることがあります。親しい人との死別、重大な病気、事故や犯罪被害などの強い心理的ストレスが先行することがあります。過去のトラウマ、いじめ、周囲からの否定、人間関係のトラブルなども原因となる可能性があります。また、小児期の否定的な出来事(分離など)も関連していると考えられています。


広場恐怖症のセルフチェック
(初期症状)

広場恐怖症の症状は、精神的症状だけでなく、身体的症状をきたすこともあります。特に特定の状況や場所で強くあらわれることが特徴です。症状が起こりやすい場面としては、公共交通機関の利用時、人混み、行列、広い場所、閉鎖的な空間があります。重度の場合、外出が困難になることもありますので、気になる症状がありましたら、早めに当クリニックまでご相談ください。

精神的症状

  • 頭がクラクラする
  • 現実感の喪失
  • 憂うつな気分が続く
  • 気が狂ってしまいそうな感覚がする
  • 自分をコントロールできない感じがする
  • 死んでしまいそうな恐怖がある
  • 逃げ出せないのではないかと不安になる
  • 交通事故を起こすかもしれないと怖くなる
  • 他人に迷惑をかけてしまいそうな不安がある
  • 離人感(自分が自分の心や体から離れている感覚)
  • 人前で倒れても助けてもらえない不安がある
  • パニック発作への恐怖がある

など

身体的症状

  • 動悸
  • 息切れ
  • 発汗
  • 腹痛
  • 耳鳴り
  • 赤面
  • まぶたの痙攣
  • 舌がもつれる
  • 手足の痺れ
  • 手足の震え
  • ふらつき
  • 胃痛
  • 頭痛
  • 吐き気
  • 眩暈
  • 肩こり

など


広場恐怖症の検査・診断

広場恐怖症の診断は、主にDSM-5の基準に基づいて行います。必要に応じて、血液検査などの他、MINI(簡易精神診断面接)やPDSS(パニック障害重症度尺度)などの構造化面接や心理検査を診断の補助として使用します。

症状の評価

以下の状況のうち、少なくとも2つ以上で著明かつ持続的(6か月以上)な恐怖または不安が見られる必要があります。

  • 公共交通機関の利用
  • 広い空間にいること
  • 囲まれた場所にいること
  • 人混みの中にいることや列に並ぶこと
  • 自宅の外に1人でいること

恐怖の性質

パニック発作が起きたり、逃げられなくなったり、助けが得られないかもしれないという恐怖を感じているか確認します。

症状の影響

恐怖や不安が日常生活や社会的機能に支障をきたしているか確認します。

症状の持続期間

症状が6か月以上続いていることが診断の条件となります。

他の疾患との鑑別

パニック障害、社交不安障害、特定の恐怖症など、類似した症状を示す他の不安障害との鑑別が重要です。また、甲状腺機能亢進症や心疾患など、類似した症状を引き起こす可能性のある身体疾患を除外する必要があります。他の疾患を除外するために、必要に応じて各種検査をご案内します。


広場恐怖症の治療法

薬物療法

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を第一選択薬として使用します。セロトニン神経系の機能を高め、不安や恐怖を和らげる効果があります。また、ベンゾジアゼピン系抗不安薬も予期不安の軽減やパニック発作の抑制に用いることがあります。

SSRI

認知行動療法(CBT)

CBTは広場恐怖症の最も効果的な治療法の一つです。患者さんが自身の考え方の歪みを認識し、コントロールする方法を学びます。特に曝露療法が重要で、恐怖を感じる状況に段階的に身をさらすことで、不安が軽減していくことを体験します。

認知行動療法

曝露療法

恐怖を感じる状況に意図的に身をさらし、不安が自然に低下することを体験する方法です。安全行動や回避を行わず、不安に身をさらし続けることで、馴化(慣れ)が起こり、恐怖が軽減していきます。通常、20~30分程度で不安は消失し始めます。


広場恐怖症は
自力で治すことができる?

広場恐怖症の自力での完全な治癒は難しいですが、症状の軽減は可能です。段階的曝露療法の原理を応用し、不安を感じる場所に少しずつ挑戦することで改善が見込めます。ただし、無理な挑戦は症状を悪化させる可能性があるため、医師や臨床心理士/公認心理師といった専門家の指導を受けることを推奨します。認知の歪みを修正し、リラクセーション技法を習得することも有効です。